理屈の上では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な流行)の間は家から出ないことが、感染する可能性を減らすためにとれるもっとも効果的な手段だ。そうすることで感染症の蔓延を迅速に抑え込める。たとえばサイエンス(Science)誌に掲載された最近の研究によると、社会距離戦略(Social distancing)は、広範に実施されている旅行禁止や渡航制限よりもよほど優れているとのことだ。
しかし現実には、ずっと家にこもっていることは不可能だ。個々人の状況によって、自宅で仕事ができなかったり、公共交通機関の使用を避けられなかったりする場合もある。あるいは、どうしても飛行機に乗らなくてはならない事情が生じる場合もあるだろう。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の鎮圧は、「オール・オア・ ナッシング(すべてか、さもなくば無か)」ではない。世界のどこであれ、出かける必要が生じたとしても、あなたが責任を持って実践できる多くの方法がある。顔に触らないこと、石鹸と水で20秒間手をよく洗うことといった基本的なこと以外にも、方法はいくつかあるのだ。生活のさまざまな局面で実践できる、6人の専門家からのアドバイスを紹介しよう。
肝心なのは、ストレスを感じ過ぎないことだ。ピッツバーグ大学の感染症および微生物学のモーゼス・タークル・ビリティ助教授は、「ある程度の正気を保つ」ことも同様に重要であり、「精神的健康と幸福は免疫系に影響を与えます」と言う。自分ができることを実行し、継続できる習慣を身に付けることは重要だが、すべてを実行できないからとパニックに陥る必要はない。
あなたが〇〇のときにやるべきこと
次のようなケースで「やるべきこと」を具体的に見て行こう。
公共交通機関を使う時の対処法
通勤時間を調整する。行かねばならない場所まで車や徒歩で行けない場合には、混雑していない時間帯に公共交通機関で通勤することを検討する。通勤時間を少しでもずらすことで、混雑した地下鉄やバスで生じる感染のリスクを軽減できるとオレゴン州立大学公衆衛生学部のジュリー・マクマリー助教授は言う。マクマリー助教授は、新型コロナウイルス感染症を抑制するためのヒントを記載した人気のWebページ「曲線を平坦化する(Flatten the Curve)」の作成者だ。
表面に触れない。移動中は、支柱や取っ手に触れないようにする。ある査読前論文の研究によると、新型コロナウイルスは硬い表面上で最長3日間残存することが示されている。しかし、物体の表面を経由して感染する証拠はまだない。手袋を着用したり、間に合わせの防御策で直接触れないようにすることもできるが、屋内に戻ったらすぐに取り外す必要がある。
飛行機や長距離バス、電車に乗る時の対処方法
あなたの地域と行先の新型コロナウイルス感染症の統計をよく調べる。疾病管理予防センター(CDC)のWebサイトをチェックして、搭乗する直前まで避けるべき場所について学習してほしい。情報は「非常に急速に、数時間で」変化すると、国際旅行医学協会( International Society of Travel Medicine)の会長であり、ハーバード大学関連病院のマウント・オーバーン病院(Mount Auburn Hospital)のリン H. チェン准教授は言う。あなたが住む地域の統計をチェックして、自分がウイルスに晒された可能性があるかどうかを確認することも重要だ。リスクが高い場合は、旅行を再考すべきだ。
(可能な限り)人から6フィート(約1.8メートル)離れる。 CDCの6フィート・ルールは、搭乗するまで並んで待つ間は不可能かもしれない。しかし、搭乗エリアの行列に殺到したり、コーヒーショップに群がったりする必要はない。
間に合わせのマスクを着用する(それで安心できる場合には)。マスクを公の場で着用することで健康な人が新型コロナウイルスに感染するリスクを減らすことができるかどうかはまだ不明だが、行き過ぎた保護で害が生じることはないとチェン准教授は言う。注意すべき点は、マスクに慣れていない人はマスクに触ってしまい、新型コロナウイルス感染症予防の基本的なルールに反する恐れがあることだ。顔に触ってはいけない。
到着したらシャワーを浴びる。目的地に着いたら、他の人と交流したり、共用スペースでゆっくりくつろいだりする前に、石鹸を使って温水のシャワーを浴びる。 「石鹸と水は最高の消毒剤の1つです」とビリティ助教授は言う。さまざまな表面に触れている場合、入浴は手洗いよりもさらに包括的な方法だ。旅行中に着た服は洗濯するまで着てはいけない。
病気になった時の対処法
自宅に留まる。(新型コロナウイルス感染症以外で)病気になった場合は、外出する必要があるかどうかを再検討してほしい。新型コロナウイルスは、別の病気と同時に感染すると危険性がもっとも高まり、合併症を引き起こす可能性が高くなるとカリフォルニア大学バークレー校のフェンヨン・リウ教授(ウイルス学)は言う。免疫系が弱体化すれば、脆弱さは増す。あなたの病気が何であれ、他人、特に免疫無防備患者と接触すれば、彼らの感染リスクも高まることになる。
間に合わせのマスクを装着する。しかし、医療機関に行くなどで外出が避けられない場合には、他の人を守るために鼻や口にマスクやその他の間に合わせの防御物を装着する。スカーフなどの他の布でも、何もしないよりは、咳やくしゃみをした時の飛沫を減らすのに役立つ。もちろん、マスクはしっかり隙間なく装着されるほど良いとマクマリー助教授は言う。ただし、最前線の医療従事者用に確保される必要がある医療用マスクを買いだめしてはいけない。 「それはすべての人にとって逆効果となります」(マクマリー助教授)。
救急車を呼ぶ。新型コロナウイルスに感染している疑いがある場合は公共交通機関での移動を避け、救急車を呼ぶようにとリウ教授は言う。同乗者を非常に大きなリスクにさらすことになるからだ。あなたが別の感染症にかかる可能性もある(日本版注:厚生労働省は感染の疑いがある場合、各都道府県の相談センターに電話で相談するよう呼びかけている)。
食べ物が必要な時の対処法
配達を利用する。 配達サービスを利用できる場合は、食料品店やレストランの配達サービスを選択する。店内を循環する人々の流れを減らし、地域に感染が広がる可能性を減らせる。食べ物が届いたら、配達員が立ち去ってから荷物を受け取るようにしよう(多くのデリバリーアプリでは、そのように指定するオプションが提供されている)。これにより、家から家へと移動する配達員(および地域)の病原体への潜在的な曝露を最小限に抑えられる。
セルフサービス・レジを使う。店に行かなければならない場合は、他の人との接触を最小限にする。
パッケージを除染する。配達を受け取ったり、店頭で食料を購入したりしたら、除染手順を考える。「現段階ではやり過ぎかもしれません。ですが、予行演習として考えてみることは誰にとっても本当に重要なことです」とマクマリー助教授は言う。事態が悪化した時に備えて、習慣を構築しておこう。
荷物を安全に置いておくことができる玄関先などの屋外の場所がある場合には、そこに数時間置いて外気に触れさせる。繰り返しになるが、ウイルスが表面上でどれだけ長い期間残存するかは専門家にも分かっていないので、放置する時間は長ければ長いほど良い。パッケージを開けるときは手袋を着用するか、間に合わせの防御物を使って外装を破棄する。処理が終わったら、念入りに手を洗うことを忘れないように。
保管する前に洗って消毒する。パッケージから取り出したら、洗浄可能な物は温水と石鹸を使用して洗う。新型コロナウイルスに対する水と石鹸の効果を示す具体的な研究はないが、これらを合わせて使うことは、エンベロープ(膜)のあるウイルスに対して一般的に有効であることが分かっているとビリティ助教授は言う。石鹸はエンベロープ(膜)に損傷を与え、ウイルスを無効にする。洗浄できない物については、石鹸と水またはアルコールを使ってしっかり擦って拭う。アルコールの蒸発作用によってウイルスは不活性化する。米国環境保護庁(Enviromental Protection Agency:EPA)は、効果のある消毒剤のリストも公開している。
生の食品よりも加熱したものを選ぶ。 加熱調理は汚染除去を保証する最も安全な方法であるとリウ教授は言う。しかし、念入りに洗浄することも良い防御策だ。
運動する時の対処法
家庭内又は屋外での運動をする。定期的な運動を控えることは、精神的健康によろしくない。このようなストレスの多い時期には特にそうだ。そこで、ジムに行かなくても済む習慣を身に着けることを検討しよう。ジムはさまざまな種類の病原体の温床であり、激しい呼吸と閉鎖空間によって、新型コロナウイルスの拡散リスクも高まる。屋外でのジョギング、自分の寝室でのヨガなど、自宅で器具を使わない別の運動方法を見つける。
混雑する時間帯を避ける。ジムに行く必要がある場合には、トレーニングスケジュールを変更することを検討する。地下鉄が混雑する時間帯を避けるべきであるのと同様に、トレーニングの時間をずらすことは感染リスクを減らすのに役立つ。
接触性の高い機器は使わない。ウェイトトレーニング器具など、長い時間触れている必要があるトレーニング機器の使用を避け、ランニングマシンなどの触らずに済むものを選択する。使用する前と後に機器を消毒し、トレーニング中には顔の汗を手で拭わないようにする。
直後にシャワーを浴びる。一般的に良いルールだが、特にあなたの体を消毒するために重要だ。衣服や肌に潜在的な汚染物質が付いている時間を最小限に抑えられる。
家を出る時や帰宅した時の対処法
ピーク時を避けて、一度に用事を済ませる。できる限り多くのことを一緒に済ませるようにしよう。 「外出の回数を最小限に抑え、できるだけ長い時間家で過ごすのが望ましいです」とマクマリー助教授は言う。また、仕事の前や夜遅くに店や公共の場所に行くことで、混雑を避けるようにする。一般的に、感染のレベルがわからない場所で過ごす時間を減らすことが重要だとビリティ助教授は言う。
「外」と「内」の衣服を一緒にしない。 家に帰るたびに、服と靴を変えて、できるだけ早く洗濯する。可能な場合には、日光などで消毒するために、コートやその他の洗濯しにくい物を屋外に置くとよい。「リスクの高い地域にいる人々に特に当てはまります」(マクマリー助教授)。
専用の再入場ゾーンを設ける。荷物のステージングエリア(ちょとした荷物を置くスペース)は人間にも有用だ。着替えや靴を脱ぐことのほか、携帯電話や鍵を消毒するために、こうしたスペースを使う。特にスマホは消毒が難しい場合があるので、家を出るときに薄いビニール袋に入れ、取り出して戻す時には石鹸と水またはアルコールで拭き取る。
外出から戻ったらシャワーを浴びる。もちろん、できればすぐにシャワーを浴びる。子どもは特に顔に触れる傾向があるので、石鹸と水で洗う。時間がない場合、少なくとも顔と手を洗うようにと、全米学校看護師協会のローレン・コム会長は言う。
子どもがいる場合の対処法
誇張したり、パニックに陥ったりしない。新型コロナウイルス感染症について年齢に応じた方法で説明してください、と臨床心理学者である児童心理研究所(Child-Mind Institute)のマーク・ライネック所長は言う。しかし、「冷静に物事を見る目を保つことは非常に重要になります」(ライネック所長)。あなたの子どもが咳をしたり、新型コロナウイルスが拡散している場所で何時間も過ごしたりしても、怖がってはいけない。あなたの子どもは安心したいと思っている。
良い習慣を示す。子どもを抱きよせて、咳やくしゃみをする方法を教え、「ハッピーバースデー」を2回歌いながら顔と手を徹底的に洗う方法を教えるように、とコム会長は言う。同じ曲に飽きてきたら、「きらきら星」や「ABC」など、子どもが覚えやすいものを選ぶといい。
工夫して友達と遊ばせる。学校が閉鎖されると、子どもはイライラしたりや孤立感を感じたりする傾向がある。テクノロジーを創造的に使用し、ビデオ通話ソフトのフェイスタイム(FaceTime)や、友人とビデオゲームで遊ぶのを許可するのは有効だとライネック所長は説明する。オンラインの交流活動は、友情の維持と育成に役立つ可能性がある。あるいは、家族と一緒にボードゲームや手芸などのハイテク以外の方法で遊ぶこともできる。子どもが集まって遊ぶことになった場合には、少人数のグループにして、他の子が病気にかかっていないことを確認し、遊び道具を共用しないようにとコム会長は言う。
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