10年前、スタンフォード大学の博士研究員だったマット・キャラハン博士は、将来のパンデミック(世界的な流行)の発生に備えて医療機関が備蓄できる、簡素で安価な人工呼吸器を設計した。
だが、博士が人工呼吸器メーカーの「ワン・ブレス(One Breath)」を共同創業するときには考えが変わった。慢性呼吸器疾患が主要な死亡原因の1つとなる開発途上国の救命医療に使える安価な人工呼吸器の製造こそが、喫緊で必要だと判断したのだ。
数百万ドルを調達したワン・ブレスは東南アジアでの製造準備を整え、今後12カ月以内に初の量産を開始する予定だった。
だが、キャラハン博士が当初念頭に置いていたようなアウトブレイクが発生してしまった。ワン・ブレスは現在、米国など新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大する地域の深刻なニーズを満たすため、迅速な対応が可能かどうか、模索している。スタンフォード大学の非常勤教授も務めるキャラハンCMO(最高医療責任者)は、急速に拡大する今回のパンデミックに適した機器(さまざまな基準や機能、バッテリーが必要)の製造を始めるには、追加資金を調達し、ロックイン契約を締結し、米国食品医薬局(FDA)を含む規制当局の承認を迅速に得る必要があるという(日本版編注:FDAは3月22日、緊急対策として人工呼吸器の製造に関する規制緩和を発表した)。
そのような条件を満たしたとしても、米国の医療機関向けに生産を開始できるは最も早くても約11カ月後だ。キャラハンCMOは「現在のアウトブレイクの状況から判断すると、私たちは第二波の解決策を見据えています」と語る。
新型コロナウイルス感染症の重症患者は肺の機能が低下するため、呼吸を続けられるように人工呼吸器の使用が不可欠となる。中国の数カ所の地域、イラン、イタリアなど、新型コロナウイルスがすでに広く蔓延している地域の保健医療システムは、重症患者数が人工呼吸器数を …