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新型コロナ対策、なぜ各国政府は自宅待機を呼びかけるのか?
John Moore / Getty Images
How bad can coronavirus get in the US? We’re about to find out.

新型コロナ対策、なぜ各国政府は自宅待機を呼びかけるのか?

WHOがついに新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を宣言した。多くの感染者を出しているイタリアの事例から、感染拡大に不可欠な対策を理解する必要がある。 by Antonio Regalado2020.03.18

最悪、感染者数はどの程度まで増えるのか? ワシントン州のジェイ・インスリー知事は3月10日、ワシントン州だけで今後2カ月の間に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が6万4000人にのぼる可能性があると言い切った。現在の中国の感染者数に迫る数値だ。ワシントン州の人口は中国の約200分の1にすぎない。

インスリー知事がこの発言をしたとき、感染者が162人しか確認されていなかったワシントン州では、彼の予測はあまりにも悲観的で非現実的に思えたかもしれない。しかし、3月14日にはワシントン州で確認された感染者は642人に達し、確認症例数が指数関数的に急増する可能性を明らかにした。

今後、米国でどのような状況が起こり得るのかを理解するため、感染者数が2万1000人を超え、中国に次いで世界で2番目に感染者数の多い国となっているイタリアのこれまでの経過を検証してみよう。

イタリア人のダニエル・マッキーニ医師は3月8日、ブログへの投稿で初期の落ち着いた空気を物語っている。緊急治療の必要がない患者を徐々に退院させて準備を整えていた病院は「沈黙と空虚の非現実的な雰囲気」が漂い、「私たちは現実をまだ理解していませんでした」とマッキーニ医師は振り返る。病院は戦闘態勢を整えていたが、マッキーニ医師はその戦争が起きることを確信していなかった。

しかし、その後、患者が次々と到着し始めた。どの患者も診断結果は両肺の間質性肺炎(IP:interstitial pneumonia)だった。IPは肺が攻撃され、呼吸困難になる疾患だ。集中治療室(ICU)の病床はすぐに埋まった。「文字通り戦争が勃発し、戦闘は昼夜を問わず絶え間なく続いています」とマッキーニ医師は状況を書き残している。「もう外科医だ、泌尿器科医だ、整形外科医だと言っていられません。私たちは突然発生した巨大な津波を前に、医師一丸となって戦っています。患者は倍増し続け、対応しきれません。同じ診断結果の入院患者は1日に15〜20人にのぼります。次々と届くPCR検査の結果は陽性、陽性、すべて陽性です。あっという間に、緊急治療室では医療崩壊が進行しています」。

世界保健機関(WHO)によると、新型コロナウイルスの全体的な致死率は約3.5%だが、一部感染者には無症状の可能性があるため、実際の致死率は不明だ。しかし、イタリアでは6%を超えるかもしれない。これは、イタリアにおける高齢者の人口比率の高さが一因だ。80歳以上の人の感染者の致死率は、20歳未満の感染者の約1000倍だ。

中国からのある報告によると、80歳以上の感染者の致死率は18%だという。

マッキーニ医師は投稿の最後で、新型コロナウイルス感染症の拡大を遅らせるために、人との距離を保ち、人混みに出ないように懇願している。「このメッセージを多くの人と共有してください。現在のイタリアの状況を回避するため、広く伝える必要があります」。

以上が、この数週間にわたるイタリアの状況だ。これが、今後数週間の米国の状況になるのか?

ハーバード大学の疫学者マーク・リップスティッチ博士は、1年以内に世界人口の約半数が新型コロナウイルスに感染する可能性があると予測している。米国疾病予防管理センター(CDC)の最悪の想定によると、米国では高齢者を中心に170万人が死亡する可能性がある。

これまでのところ、新型コロナウイルスが最も感染しやすいのは、感染者と同居する家族といった「濃厚接触者」だと医師の間では考えられている。濃厚接触とは、感染者から咳などで放出されたウイルスを含んだ飛沫が、口、鼻、目に付着したり、その飛沫が付いた物体表面を触ったりすることを指す。新型コロナウイルスは排泄物中にも存在し、それが別の感染経路である可能性もある。

新型コロナウイルスの拡大スピードは、ウイルス固有の性質に依存するが、社会がウイルスにどのような伝染ルートを提供するかにもよる。すべてのウイルスには「基本再生産数(R0、アールノート)」がある。これは、感染者1人が平均して何人に感染させるかを示す指標だ。

WHOの推定では、新型コロナウイルスのR0は2.0〜2.5(PDFファイル)。ただし、この値は最良推定値(最も適正だと考えられる値)にすぎない。対照的に、一般的なインフルエンザのR0は平均1.3だ。はしかのような感染力が強い感染症では、R0の値は10を超える。それでも、R0値の小さな違いには大きな意味がある。表は、5人の初期感染者からの理論的な感染者数の増加スピードを示している。ただし、実際には、一定のサイクル数が経過すると感染拡大スピードは低下し始める。

R0の数値は不変ではない。感染拡大の有効スピードは、感染者とその濃厚接触者の隔離で変えられる。2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)のアウトブレイクでは、このような公衆衛生対策を講じた結果、最終的にSARSコロナウイルスは完全に阻止された。

したがって、R0は新型コロナウイルスの感染拡大を遅らせる、最も効果的な方法を理解するのに役立つ。たとえば、どれほど広範囲で、思い切った社会的距離をとる必要があるかをR0を使って計算できる。感染率を半分以上落とせれば、実質的に感染拡大を止めたことになる。

新型コロナウイルスの感染が野放し状態で広まり、検査がまだ追いついていない地域では、確認された感染者数は指数関数的に倍増し、3月第2週のワシントン州のように2日ごとに倍増することもある。ただし、感染拡大の抑制措置が講じれば、感染者数が倍増する時間を劇的に低減できる可能性がある。たとえば、日本では感染者数が10日ごとに倍増している。

公衆衛生当局は、病院での医療崩壊の危機を回避するために、感染拡大を遅らせることが不可欠だと説明する。これは「曲線の平坦化」として説明されてきた。最終的にほとんどの人が感染したとしても、感染拡大を遅らせることができれば、患者はよい治療を受けることができるため命を救える。イタリアなどの爆発的な患者数の増加に苦しんでいる国では、ICUの病床が埋まり、重症患者の治療に必要な人工呼吸器などの医療機器が不足しているため、死亡率がはるかに高い。

新型コロナウイルスの拡散を遅らせるには、感染者を検出し、感染者とその濃厚接触者を自主隔離することだ。だから一般の人々は、人混みを避けて自宅で過ごすなど、社会的距離をとることが感染拡大の遅延に役に立つのだ。

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MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
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