KADOKAWA Technology Review
×
新型コロナはダンボールに1日残存、吊革も感染ルートか
Ms Tech / Getty
Here’s how long the coronavirus can live in the air and on packages

新型コロナはダンボールに1日残存、吊革も感染ルートか

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はなぜこれほど感染していくのかが疑問になっている。米国立衛生研究所(NIH)の研究チームは、ダンボールや鉄、プラスチックなどさまざまな素材の上でウイルスがどのくらいの期間残存するのかを調べた。 by Antonio Regalado2020.03.14

伝染性の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は宅配用ダンボール箱の上で少なくとも1日残存し、鉄やプラスチックの上ではさらに長く留まることができる。

すでに11万人以上の感染者を出している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のアウトブレイクでは、原因となるウイルスがいともたやすく人から人へ伝染する仕組みが大きな疑問の1つになっている。私たちの身近にある物体に留まることができるウイルスや細菌は多いが、新型コロナウイルスの残存の仕組みに焦点を当てて詳細に調べれば、エピデミック(局地的な流行)を抑えるのに役立つだろう。

そこで米国の研究者たちは、家庭や病院によくある7つの素材にウイルスを付着させ、感染力が継続する時間を調べてみた。

モンタナ州ハミルトンにある米国立衛生研究所(NIH)ウイルス学部門のビンセント・ミュンスター博士らの研究チームが新たなプレプリント(査読前論文)で説明した実験によれば、ウイルスの残存時間が最も長かったのはプラスチックやステンレス鋼の上で、3日間留まっていた。

このことから、病院の設備や地下鉄の吊り革が感染ルートとなる可能性が示唆される。

しかしながら、ウイルスが実際に無生物を介して広がることを示す決定的な証拠は今のところない。「現時点では、汚染された物体の表面や無生物からCOVID-19に感染するかどうかは不明です。それが最終的な結論です」と、ワシントン大学公衆衛生学部の微生物学者であるマリリン・ロバーツ教授は語る。

患者の検査をしている医師たちは、人間の上気道に大量のウイルスが存在していることを把握している。咳やくしゃみをしたときにウイルスが広がり、空気中や物の表面に飛沫やエアロゾルを撒き散らすと思われる。

「宿主から追い出された後に、新たな宿主にとりつくのに十分な時間だけ残存する必要があるため、空気中や物体表面でのウイルスの安定性は感染力に直接関係します」。ミュンスター博士らのチームはそう記している。

同チームによれば、ボストンで発生したと見られるような「スーパースプレッダー」現象は、エアロゾルを介した感染と考えれば説明がつきやすいという。ボストンでは、バイオテクノロジー企業バイオジェン(Biogen)が開いたカンファレンスの関係者、70人以上が感染している。

研究チームはさまざまな素材でウイルスがどれだけ残ったかを調べたほか、エアチェンバー内を浮遊している際の残存時間も調べた。数時間もしくは数日待ってから物体表面を拭き取り、細胞への感染力が維持されているかどうかをペトリ皿の中で調べた。

ウイルスが最も好む素材はステンレス鋼とプラスチックで、3日後でも感染力のあるウイルスが採集できた。さらに長く留まるする可能性もある。最も嫌ったのは銅で、ウイルスはわずか4時間で死滅した。エアチェンバー内に噴霧したものは約3時間残存していた。

ウイルスが拡散する仕組みを確定するには詳細な疫学調査が必要となる。しかし今回の研究室での新たな発見から、少なくともアマゾンの梱包材やプラスチック製のスマートフォンケースにはウイルスが付着する可能性が示された。

インフルエンザのようなウイルスの中には、私たちが物の表面に触れると、数秒で数百万ものウイルス粒子が付着するものがある。別の研究では、人は1時間に20回以上顔面に触れているという結果が出ている。また、温度や湿度が低い環境ではウイルスの残存時間が長くなる。

保健当局は、手を頻繁に洗い、アルコール系消毒薬で物を消毒することを推奨している。コロナウイルスはかなり簡単に死滅することが知られている。アルコールや薄めた過酸化水素水などが効果的だ。

ドイツの研究者らは2月に、新型コロナウイルスについてその時点で分かっていたことをまとめた。そこでは、表面を消毒してから1分以内に数百万個のウイルス粒子が100個まで減少し、感染のリスクを抑える可能性が示された。

NIHの研究員は新型コロナウイルスをSARS(重症急性呼吸器症候群)のウイルスと比較し、2種類のウイルスが同じような時間残存していることを発見した。SARSは2003年に大流行したが、感染力は強くなかった。つまり、COVID-19の急速な拡大の背景では別の要素が働いていることになる。

その要素が何なのかはまだ完全には分かっていないが、NIHの研究員によれば、症状のない新型コロナウイルスの感染者がウイルスを撒き散らしている可能性がある。もしくは、「感染用量」と言われる基準よりも少ない量のウイルスで感染する可能性も考えられる。

研究チームは現在、鼻水や唾液、便におけるウイルスの残存時間や、残存環境の温度や湿度についても調べている。

3月14日22時45分更新:掲載当初の「『スーパースプレッダー』現象は空気感染」との記述は誤解を招く表現でした。「エアロゾルを介した感染」に訂正します。

人気の記事ランキング
  1. What’s on the table at this year’s UN climate conference トランプ再選ショック、開幕したCOP29の議論の行方は?
  2. This AI-generated Minecraft may represent the future of real-time video generation AIがリアルタイムで作り出す、驚きのマイクラ風生成動画
アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る