インテル、シリコン製量子コンピューターの開発で前進
インテルは、従来のコンピューターの処理能力を遙かに上回る量子コンピューターを、従来の技術の延長線上に実現しようとしている。 by Tom Simonite2016.12.22
問題の解決策が、初めからわかりきっている場合がある。半導体メーカーのインテルは、量子コンピューター(量子力学の特徴を利用して計り知れない処理能力を発揮するはずの機械)の開発競争における自社の方針を確信している。
インテルのライバルであるIBMやマイクロソフト、グーグルは、現在のコンピューターとは異なる、量子コンピューター専用の部品を開発してデータを大量に処理しようとしている。しかしインテルは、現在のコンピューターの基礎材料であるシリコン・トランジスターを応用して量子コンピューターを開発しようとしているのだ。
インテルは、オレゴン州ポートランドに量子ハードウェアエンジニアチームを構え、昨年設立された5000万ドルの助成金により、デルフト工科大学(オランダ)のキューテック量子研究所(QuTech quantum research institute)と共同研究している。インテルの研究グループは12月上旬、半導体工場で使われる標準的シリコンウェハー上に量子コンピューターに欠かせない超高純度シリコンを重ねる技術を開発したと発表した。
量子コンピューターにどんな基本的構成部品が必要なのかはもうわかっている。量子コンピューターにシリコンを使う戦略により、インテルは量子ビット(量子コンピューターの計算機能の最小単位)を研究する業界や学術グループで頭ひとつ飛び出した存在だ。他社は超電導回路製の量子ビットを複数組み合わせた試作チップでコードを動作(「グーグル、2017年中に 量子コンピューターを発表?」参照)させており、シリコン製量子ビットをここまで進歩させたのは、今のところインテルだけだ。
本格的な量子コンピューターの実現には、何千、何百万の量子ビットを組み合わせる必要がある。インテルの量子コンピューティング・プロジェクトを率いるディレクターのジム・クラークは、シリコン量子ビットによって量子コンピューターが実現する可能性が高いという(ただしインテルは超電導量子ビットも研究している)。シリコンを使うメリットは、何億個のトランジスターを組み合わせる従来の半導体製造の専門技術と機材を使って、シリコン量子ビットを完成させ、集積規模を急速に高められることだ、とクラークはいう。
インテルのシリコン量子ビットは、市販されている既存の半導体チップの改造版に閉じ込められた単電子の「スピン」と呼ばれる量子的性質でデータを表す。「一番いいのは、最高のトランジスター回路を作り、材料と設計を少し変更するだけで最高の量子ビットを開発できることです」とクラークはいう。
シリコン量子ビットをインテルが実現したい別の理由は、シリコン量子ビットのほうが超電導量子ビットより信頼性が高いことだ。シリコン量子ビットでも、非常に弱い量子効果でデータを処理するため、すべての量子ビットはエラーを起こしやすい(“Google Researchers Make Quantum Components More Reliable”参照)。
ニューサウスウェルズ州立大学(オーストラリア)でシリコン量子ビットを研究する アンドリュー・ズーラック教授は、インテルが素材企業のユレンコ(Urenco )やエア・リキード(Air Liquide)と共同開発した、一般的なシリコンウエハー上の量子ビットの実験を支えた製造工程により、インテルのシリコン量子ビットの研究は早まるはずだ、という。「数百、数千個の量子ビットを組み合わせるには、途方もない工学的確実性が求められますが、それこそが半導体産業の特徴なのです」とズーラック教授はいう。
超電導量子ビットを開発する会社も、既存の半導体チップ製造方法で超電導量子ビットを開発中だ。しかし、結果としてできる装置はトランジスターよりもサイズが大きく、大量生産のノウハウがまだない、とズーラック教授はいう。
グーグルやIBMが開発しているのと同様の超電導量子ビットを研究するスタートアップ企業、リゲッティ・コンピューティングの創業者であるチャド・リゲッティ最高経営責任者(CEO)も、最低数百個の量子ビットをどうすれば高精度に集積できるかが課題であることに同意する。しかしリゲッティCEOは、リゲッティ・コンピューティングも選んだ超電導量子ビットのテクノロジーのほうが有利なスタートを切っており、量子コンピュータの実現を妨げる諸問題に対処するための十分な時間と人的経済的リソースを得られるという。
グーグルもリゲッティも、特定の分野の計算では、従来のコンピューターよりも計算速度が劇的に早く、化学や機械学習の分野でも課題解決に貢献する数十~数百万個の量子ビットが埋め込まれた製品を、あと数年のうちに製造するようになるという。
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- MIT Technology Reviewのサンフランシスコ支局長。アルゴリズムやインターネット、人間とコンピューターのインタラクションまで、ポテトチップスを頬ばりながら楽しんでいます。主に取材するのはシリコンバレー発の新しい考え方で、巨大なテック企業でもスタートアップでも大学の研究でも、どこで生まれたかは関係ありません。イギリスの小さな古い町生まれで、ケンブリッジ大学を卒業後、インペリアルカレッジロンドンを経て、ニュー・サイエンティスト誌でテクノロジーニュースの執筆と編集に5年間関わたった後、アメリカの西海岸にたどり着きました。