KADOKAWA Technology Review
×
【冬割】 年間購読料20%オフキャンペーン実施中!
The Limits of Fact-Checking Facebook

事実確認をしてもフェイスブックがねつ造ニュースのプラットフォームであり続ける理由

事実確認によって、米国のフェイスブックユーザーにはねつ造ニュースの可能性について警告が表示されることがあるが、フェイスブックからねつ造ニュースがなくなると期待するのは早合点だ。 by Matt Mahoney2016.12.21

「誰にも自分の意見を言う権利はあるが、事実に基づかなければならない」

ダニエル・パトリック・モイニハン上院議員(ニューヨーク州選出、1927~2003年)の倫理的格言は2016年でも生き続けている。フェイスブックが自社のソーシャルネットワーク上で共有されている記事の嘘を暴くために事実確認機関を設立したいま、真価を発揮しようとしている。

フェイスブックの対策は、2016年の大統領選挙中にねつ造ニュースを拡散させたことへの批判に応えている。しかし、ねつ造ニュース記事のすべてが入念に調べられるわけではない。事実確認の担当者は、あらゆる種類の政治的主張に対応し、真実なのか、嘘なのか、あるいはその中間なのかを評価するが、フェイスブックの新しい提携先はクリック数と広告収入を生み出すために米国海外で大量に作られた「最悪中の最悪な」インチキニュースに目を向けるだけだ。たとえば、共和党は、社会保障制度による給付金を「即時、最大50%」削減しようとしている記事や、オバマ大統領は「黒人に即時『賠償金』を支払う」といった記事だ。

ポリティファクトのアーロン・シャーロックマン・エグゼクティブ・ディレクターは「ポリティファクトは非常に明確な嘘に目を向けることになります」という。ポリティファクトは、フェイスブックの事実確認機関に参加する7つの組織(ABCニュース、AP通信、FactCheck.org、スノープス、クライメート・フィードバック、ワシントンポスト紙)のひとつとして、新機能に関わる。「誤解を招く恐れがあったり、真実を揺るがす恐れがあったりすれば、私たちは恐らく、フェイスブックとの提携の一環として、そうした記事を処分するでしょう」

したがって、多くの誤解を招くように表現された記事は、実際にある程度の根拠がある限り、フェイスブック上で放置されることになる。ポインター研究所で国際事実確認ネットワークのディレクターを務めるアレクシオス・マンササルリスは「事実確認者が、白黒を付けにくい半端な領域にある記事で、真偽を判断できる場所は他にもあります」という。ポインターの「基本原則」は、フェイスブックの信頼できる第三者機関を確定させるためにも使われた(7組織は、新機能に関連して一切報酬を受け取っていない)。

フェイスブックの構造は、誤った情報を広める、他にはない肥沃な大地だ。ネットユーザーは、グーグル検索に表示されるねつ造ニュースサイトを見抜いて、内容を疑える。だが、フェイスブックは閉じた世界であり、現在でも、ねつ造ニュースサイトと真っ当なサイトは、まったく同様にユーザーのフィードに表示される。フェイスブックの情報は、信頼できる友人や家族の間で共有されるし、バズフィードがイプソス(マーケティング調査会社)に依頼した大統領選挙後の世論調査によって、ニュースをフェイスブックで見る可能性が高いユーザーは、でっち上げの見出しを正しいニュースとして評価する可能性が高いとわかったことは、驚くにはあたらない。

特に、フェイスブックが契約する人間の編集者が、フェイスブックのトレンディング・ニュースセクションで保守的なニュースを削除したという非難(それ自身がファクトチェックの対象になっている疑わしい批判だ)を巡って勃発した論争を考えると、フェイスブックは、明らかに情報の門番の役割を果たすことに躊躇している。ねつ造と判定された記事はソーシャルネットワークのフィード内で優先度が下がるが、完全には消去されない。ねつ造と判定された記事を共有しようとするフェイスブックのユーザーに「この記事を共有する前に、第三者の事実確認者が記事の正確性に異議を唱えたことを知りたいですか」と表示されるだけだ。

ユーザーが新しいお知らせにどう反応するのかはわからない。記事を「偽」ではなく「真偽を問われている」とラベル付けすれば、どんな主張にも二面性があるという党派主義的理解に陥る可能性がある。さらに、ワシントンポスト紙やAP通信のような主要メディアが投稿記事に警告を出せば、多くの人の目に留まる記事になりかねない。2015年にアメリカン・プレス研究所(API)による研究では、共和党支持者は、民主党支持者ほど事実確認者を好意的に捉えていない傾向がある。

しかし、フェイスブックがねつ造ニュースを単に表示しないようにした前提措置で受けた批判を考えると、フェイスブックの慎重なやり方は、唯一実用的かもしれない。「『なんてことだ、フェイスブックは何もしていない』から『なんてことだ、フェイスブックはすべてを検閲している』になっている」とマンササルリス・ディレクターはいう。

「流れに逆らって泳ぐことは、事実確認者にとっては昔からあることです」というのは、9月に『何が真実かを決める:アメリカのジャーナリズムにおける政治的事実確認の台頭(Deciding What’s True: The Rise of Political Fact-Checking in American Journalism)』を刊行したウィスコンシン大学のルーカス・グレイブス教授だ。

「事実確認が、私たちが理想的な世界として描くような、即効性のある決定的な影響を与えることは決してありません。私たちは、事実確認によって偽りと暴露された主張を人々は信じなくなり、政治家は繰り返さなくなると考えがちです。ところが、そうはいかないのです」

(フリーランスの事実確認者マット・マホーニーは、MITテクノロジーレビューとボストン・グローブの研究員を務めている)

人気の記事ランキング
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る