中国政府が開発した、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した人の近くにいたかどうかを確認できる「濃厚接触検出器(Close Contact Detector)」アプリは、逆に誤った安心感を与えたり、感染者を精神的に傷つけたりしてしまう可能性がある。専門家はこう指摘している。
このアプリは、これまでに約5万人が感染し、1300人以上が死亡している病気の感染拡大を食い止めることを目的として公開された。だが、このアプリに対する批判のほとんどは、このようなテクノロジーを可能にさせている中国の監視体制の現実に向けられている。その一方で、一部の感染症の専門家は、今回のアプリもまた社会的な問題に十分な注意を払うことなくテクノロジーが使われている例だと指摘している。
安全と汚名
「濃密接触検出器」アプリを使うには、スマートフォンでQRコードをスキャンし、電話番号、名前、国民IDを登録する。同アプリは、ユーザーの家族や勤務先の同僚はもとより、公共交通機関で居合わせた赤の他人も含めて、ユーザーが感染者の近くにいたことがあるかどうかを伝える。感染者と濃厚接触していたことが判明し、病気に感染したり、発症したりしている可能性がある場合には、ユーザーに対して自主隔離と地元の保健当局に連絡することを推奨する。アプリは登録者本人以外に3人まで確認が可能だ。国営の新華社通信の記事は、このアプリが中国の交通機関と保健当局が収集したデータを利用していると伝えているが、どのようにして濃厚接触を判断しているのかについては明らかにしていない。
しかし、偽陰性および偽陽性の問題が常に存在するとジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターの医療人類学者モニカ・ショッホ・スパナ医師は述べる。とりわけ、新しい病気の場合は検査が100%正確にはならないことから、その可能性が高くなる。
特に新型コロナウイルス感染症(正式名称はCOVID-19)の場合は、中国当局が、感染していても症状が軽い人たちを数に入れていないという事実や、病院に行くのを避けている人がたくさんいるなどの多くの要因により、感染者の数は公式に発表されている数よりもさらに多い可能性がある。すでに、多くの偽陰性者がこれまでに報告されている。
結果として、「この病気を感染させる可能性がある人全員が、実際にアプリのデータベースに取り込まれているわけではないのです」とショッホ・スパナ医師は言う。同医師は、このアプリは、人々を誤った見せかけの安全へと導き、最終的に …