新型ウイルスが引き起こす
「インフォデミック」の実態
新型コロナウイルスを巡って、ソーシャルメディアがかつてない速度で世界中に情報を拡散している。世界保健機関(WHO)が「巨大な『インフォデミック(infodemic)』」と呼ぶ現象では、実際に何が起きているのか? by Tanya Basu2020.02.14
旧正月の1週間前の1月19日、トミー・タンはガールフレンドと深セン市を発ち、家族と休暇を過ごすために武漢を訪ねた。新型コロナウイルス(現在は正式にCOVID-19として知られている)のことは耳にしてはいたものの、彼らが知る限りではそれは狭い地域に限定された話だった。 地方政府は、ある特定の食品市場を訪れ、野生動物から直接感染した場合にのみ影響を与えると市民に説明していた。
だが、1月20日の夜、国営テレビに出演したチョン・ナンシャン(鍾南山)医師はこの情報を訂正し、新型コロナ ウイルスは人から人へ広がる可能性があると述べた。著名な衛生学者であるチョン医師は、2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が発生した時にその広がりを最初に明らかにした医師である。瞬く間にパニックが起こった。一夜明けると、街の誰もがマスクを着用し始めていた。 タンと彼のガールフレンドは、武漢に滞在していては安全ではないと気づき、計画をキャンセルして翌日には電車に乗った。それから48時間も経たないうちに、市は封鎖された。
深セン市に戻ると2人は14日間の検疫体制に置かれ、アパートから出るのは1日1回マスクをつけて、ごみを出すためだけだった。同じ深セン市に住んでいるタンの家族とも正月を祝って一緒に過ごすことはできなかった。タンは自宅のアパートのドアののぞき穴から母親に新年のお祝いを述べた。タンは食料から石鹸、トイレットペーパーまでのすべてを、オンライン雑貨店であるメイトゥアンワイマイ(Meituan Waimai)やダダ JD ダオジア(Dada-JD Daojia)の配送アプリで注文した。自宅検疫に置かれてから3日目、タンはパニックに陥った。アプリを開くとすべての物が完全に売り切れていたのだ。
「もう何もありませんでした。野菜はゼロでした。それでも武漢と比較すると、かなりマシです」。
不安を生んだ最大の原因は何よりも、ソーシャルメディア上で展開されるニュースを見るという回りくどいプロセスだった。それはタンの恐怖を反映し、今まで経験したことのないレベルにまで恐怖を増幅した。 タンとガールフレンドは不眠症と複数のパニック発作に苦しんでおり、ウイルスに感染することとガールフレンドの家族の健康について恐れている。
「正直なところ、この14日間に何が起こったのかを説明するのは本当に難しいです」とタンは言う。「ニュースを読む以外に何もすることはありませんが、ニュースは毎日悪化しています。それが外の世界の人たちにはもっとも難しい部分です」。
2月2日、世界保健機関(WHO)が新しいコロナウイルスを「巨大な『インフォデミック(infodemic)』」 …
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