インド政府、電子決済促進に最大10%割引きの補助金支給
オンライン取引のユーザー向けの割引きに政府が補助金を出すことで、インド政府は強引に、紙の紙幣から電子決済への移行を促そうとしている。 by Michael Reilly2016.12.14
11月9日、インドのナレンドラ・モディ首相は、流通している全通貨量の86%を一気に無効化した。決定は混乱を招き、人々は今や価値のない500ルピーと1000ルピー紙幣の交換に何時間も列に並んでいる。ある推定では、この混乱によって、今年、インドのGDP(国内総生産)成長率は2ポイント低下する可能性がある。インドでは、露店商人や工場労働者、農業従事者、さらに経済の底辺近くにいる何百万人もの人が現金を最も頼りにしており、最も大きな被害を受ける可能性がある。
にもかかわらず、インド政府は電子マネーにますます入れ込んでいる。ブルームバーグの記事によれば、保険契約から列車の切符、ガソリンといった商品やサービスの支払いで現金を使わずに電子決済を使えば、最大10%の割引が得られるというのだ。
インドは、銀行券から電子マネーへの転換を進める最初の国ではもちろんない。しかし、政府の独断により、意表を突いて電子化が進めているのは独特の現象だ。モディ首相はインドで横行する「闇経済」の浄化を表明しているが、目標を達成できるのかは懐疑的な見方もある。闇経済で国家の手が及ばないビジネスをして、お金を隠し持っているのは富裕層だからだ。高額紙幣の廃止宣言以降、インドの税務当局は、査察により数百万ドル相当の現金を押収した。しかし、押収額は継続的な現金不足で発生した事業破綻に比べれば、それほど多くはなく、電子化の強行を正当化できる額ではない。
早くもこの状況で勝利した企業もある。インドのデジタル決済会社が急成長しているのだ。特にペイティーエム(Paytm)は、従来の14倍の速さでユーザー登録が増えており、インドで最も繁盛しているサービスだ。ビットコインの価値が急騰しているのも、インドでの突発的な取引が直接的な原因のようだ。
モディ政権は現在、無効化した貨幣を置き換える、新貨幣の印刷に躍起になっているが、完了までに数カ月はかかりそうだ。デジタル決済に対する補助金は、大規模な通貨移行の混乱を収拾できる可能性は低い。しかし、もし混乱が落ち着けば、今回初めてデジタルマネーを体験する何百万人以上が、デジタルマネーは汚れた紙幣を扱うより便利だと判断した、と解釈できるのかもしれない。
(関連記事:Bloomberg, The Economist, The New York Times, Quartz, “Me, My Money, and My Devices,” “A Closer Look at the Future of Money”)
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- マイケル・レイリーはニュースと解説担当の上級編集者です。ニュースに何かがあれば、おそらくそのニュースについて何か言いたいことがあります。また、MIT Technology Review(米国版)のメイン・ニュースレターであるザ・ダウンロードを作りました(ぜひ購読してください)。 MIT Technology Reviewに参加する以前は、ニューサイエンティスト誌のボストン支局長でした。科学やテクノロジーのあらゆる話題について書いてきましたので、得意分野を聞かれると困ります(元地質学者なので、火山の話は大好きです)。