テック企業とトランプ次期大統領の会合で話し合われるべき3つの議題
テック企業の幹部を自宅に呼びつける次期大統領の方針は、はっきり言ってよくわからない。 by Mike Orcutt2016.12.14
ピーター・ティール(PayPal創業者でシリコンバレーの大物ベンチャー投資家)を除いて、テック業界に大統領選挙でドナルド・トランプを熱烈に応援した人間はほとんどいなかっただろう。しかしトランプが次期大統領になることが決定した今、米国のほとんどの大手テック企業は、次期大統領本人と政権移行チームが水曜日にトランプ・タワーで開催する会合に出席するためにスケジュールを空けている。
テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)、フェイスブックのシェリル・サンドバーグCOO、アルファベット(グーグル)のラリー・ペイジCEO、アップルのティム・クックCEO、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOのほか、マイクロソフトやIBM、インテル等、他の企業のCEOも、この会合に出席すると見られている。
会合の議題は公開されていないが、移民問題から税制、ドローンまで、さまざまな件が幅広く取り扱われるだろう。しかし、トランプ自身は以下の論点に関わる政策課題について明確な姿勢を示していないか、矛盾した見解を示しており、会合の出席者の多くは、トランプの本当の立場を明確にしたいと考えているはずだ。
トランプのサイバー・セキュリティ計画:もっと詳しく教えて!
次期大統領自身がサイバー・セキュリティを速やかに最優先にすると述べており、この議題から始めるのが妥当だろう。会合に出席するすべての経営者は、高まるサイバー危機に対しトランプ政権がどう対応するかを知りたいはずだ。最近公開された映像でトランプは、米国国防総省と統合参謀本部に「重要なインフラをサイバー攻撃から守るための総合的な計画を作成するよう」要請すると述べた。
しかし、この問題は非常に複雑だ。政府の方針しだいで、Webカメラから電気自動車まで、関連するすべてに影響がある。トランプは国外からの攻撃についてのみ限定的に言及しているのか? 外国政府とは無関係なハッカーの攻撃は? 安全性の低いIoTデバイスによって高まるリスクに新政権はどのように対応するのか? 機器メーカーやインターネット・サービス事業者は、サイバー攻撃に関する新たな規制の出現を想定すべきか? もしオンライン環境に変化が現れるとしたら、ユーザーはどんな変化を見越しておくべきか?
暗号化:トランプ政権は暗号化テクノロジーを規制するか?
会議室で暗号化問題に対するトランプ政権の姿勢を気にしているのは、アップルのティム・クックCEOだけではないだろう。今年、米国議会は暗号化されたデータへの司法当局によるアクセスを企業に認めさせる規制の制定を検討していた。しかし、提案はホワイトハウス等、有力者の支持が得られず、承認に至らなかったが、来年、この議論はまず間違いなく再燃するはずだ。2015年、カリフォルニア州サンバーナーディーノで起きた事件の捜査中、iPhoneの暗号化されたデータへの米国連邦捜査局(FBI)によるアクセスを拒否したアップルを、トランプは批判した。一方で、トランプが中央情報局(CIA)長官に推しているマイク・ポンペオ下院議員は、機器を製造する企業やオンライン・コミュニケーション・サービスを提供する企業に政府の「バックドア」アクセスを認める政策は「あまり望ましい結果をもたらさないだろう」との見解を示している。
しかし、下院情報委員会に所属するポンペオ議員は以前「パーソナル・コミュニケーションにおける強固な暗号そのものが問題かもしれない」とも述べている。次期大統領はこの意見に賛成するだろうか?
ネットワーク中立性:FCCのオープン・インターネット規制は制定されるのか? 実現された場合、どんな影響があるのか?
会合に出席するビデオ・ストリーム市場でライバル関係にある企業の幹部はおそらく、米国連邦通信委員会(FCC)の「オープン・インターネット」規制 に関する議論を持ち出すだろう。2015年に承認された規制は、合法的なインターネット・トラフィックをブロックしたり帯域幅を絞ったりすることを禁止することで「ネットワーク中立性」を保護するのが目的だ。また、オープン・インターネット規制は、通信事業者に追加料金を支払う代わりに自社トラフィックを優先させる契約を取り締まり、健全な競争関係に悪影響を与えそうな企業等の活動への監督権限をFCCに与えている。
次期大統領であるトランプの政権移行チームには、オープン・インターネット規制の反対派もいる。ということは、企業は規制が撤回されると見てよいのだろうか? 新たなFCCや議会によって、規制はより共和党好みのネットワーク中立性ルールに取って変わるのだろうか?
この件を議論するのに打ってつけのタイムリーな事例がある。AT&Tの新サービス「DirecTV Now」は、月額35ドルでディレクTV(AT&Tの子会社)の100チャンネルをデータ通信料の上限に関わらず、モバイル・ネットワーク上のストリーム配信で視聴できる。この種のサービスを通信事業者が提供することは、フールーやネットフリックス等のネットサービスに乗り換えたケーブルテレビの元契約者が、ケーブルテレビ型サービスに再加入するきっかけになる。ただし、オバマ政権下のFCCは、DirecTV Nowはネットワーク中立性ルールに反すると懸念を示している。トランプ政権下のFCCは、同様の見解を示さない、という理解で合っているだろうか?
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クレジット | Photograph by Spencer Platt | Getty |
- マイク オルカット [Mike Orcutt]米国版 准編集者
- 暗号通貨とブロックチェーンを担当するMITテクノロジーレビューの准編集者です。週2回発行しているブロックチェーンに関する電子メール・ニュースレター「Chain Letter」を含め、「なぜブロックチェーン・テクノロジーが重要なのか? 」という疑問を中心に報道しています。