ビル・ゲイツが声をかければ10億ドルは集まるが、投資先はあるのか?
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$1 Billion Looking for a Home ビル・ゲイツが声をかければ10億ドルは集まるが、投資先はあるのか?

ビル・ゲイツが率いる画期的クリーンエネルギーのための基金設立計画で困難となるのは、資金提供先を判断することだ。 by Nanette Byrnes2016.12.13

マイクロソフト創業者のビル・ゲイツは12月12日、画期的なクリーン・エネルギー・テクノロジーのために10億ドルの基金を設立すると発表した。

基金の設立者にはゲイツを始めとするテクノロジーやベンチャー・キャピタルの大物が名を連ねており「ブレイクスルー・エネルギー・ベンチャー(BEV)」計画が、10億ドルの資金集めに苦労することはないだろう。代表を務めるゲイツは電話で記者に対し、難しいのは投資すべき画期的プロジェクトを見つけることだ、と述べた。

「我々は状況を調べあげ、見過ごされているプロジェクトを見つけ出す必要があります。投資先は、我々が見出した素晴らしい企業に限られます」

基金は実に広大な範囲に及びそうだ。BEVは電気、農業、製造業、輸送、建築の5つのカテゴリーについて、次世代核融合エネルギーから家畜のメタンガス排出量の削減まで55の関心のある分野をリストアップしている。米国のような先進市場だけでなく、今後エネルギー需要の急速な伸びが予想される貧しい国々でも利用できそうな投資先を模索することになる。

どのプロジェクトに投資するかは、温室効果ガス排気量の削減と、今後20年間で見たとき投資家にもたらす金銭的利益を考慮して決められる。通常のベンチャー・キャピタルの投資に比べて時間的に2倍の期間だ。投資先は専門スタッフが主導して決定するが、メンバーは理事会で現在調整中だ。

クリーン・エネルギー・テクノロジーは近年、投資家の利益につなげるのに苦慮している。コンセプトを商業的成果にまで落とし込むのは、コストがかかる長い道のりだ。実験室での研究を工場での生産の規模に拡大するのは至難の業であり、大企業からのサポートもあまり得られない。特に安価に天然ガスが入手できるようになったことで、新規のエネルギー・テクノロジー開発は経済的に困難になっている。

最近のある研究によれば、2006年から2011年のあいだにベンチャー・キャピタルがクリーン・エネルギーのスタートアップ企業への投資額は250億ドル以上だが、そのうち半分以上は未回収だ。

投資家の中でも著名な2人、コースラ・ベンチャーズのビノッド・コースラと、クライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズのジョン・ドーアは、ゲイツの新投資事業の理事会メンバーだ。両氏とも、クリーン・エネルギー業界はまだ多大な投資の可能性を秘めているとしている。コースラは、今回の新たな巨額投資は、優秀な科学者や技術者をこの分野に引き寄せ、新たな投資機会をもたらすだろうと述べた。

エネルギー分野の新たなコンセプトの拠り所である基礎研究は、概して政府が助成するものだ。しかし、BEV基金がこの先投資する企業の基盤となる類の基礎研究に、米国政府のサポートがあるかどうかは明確ではない。

米国エネルギー省のARPA-E計画は、民間投資には至らない段階の見込みのあるエネルギー・テクノロジーを支援するプログラムだ。成功例もあり、45のプロジェクトが民間部門から12億5000万ドルの追加出資を得ている。だが、それはARPA-Eが出資してきた合計475のプロジェクトのほんの一部にすぎない。

COP21パリ協定の一環で、オバマ政権は特定クリーン・テクノロジーの研究開発費として60億ドルを確約した。この計画がトランプ政権でも引き継がれるのかは定かでない。

ゲイツ等の基金の理事メンバーは、米国政府のサポートの存続が危ぶまれていることに言及しながらも、基金による投資が仕事や良好な経済効果につながるとわかればARPA-Eについても積極的な議論をもたらすことになるという。