宇宙飛行士は身体的かつ精神的に非常に優れた人たちである。生命の危機にあるような瞬間でさえ冷静さを保てるように訓練されており、長期間にわたって極度に集中した状態で働くことができる。
しかし、何カ月あるいは何年にもわたって狭い空間で他人と隣り合わせで暮らし、働き、眠ることは彼らのように極めて屈強な人材といえども、ストレスを感じる環境だ。宇宙飛行士はまた、微小重力状態といった宇宙旅行の特徴である身体的負荷にも対処しなくてはならない。微小重力状態では骨や筋肉量が少しずつ減少するが、この影響で体内の水分が移動し、頭や四肢に痛みを伴う圧を与え、免疫システムを弱らせる。
とりわけ、将来実施されるであろう火星やその先を目指すミッションにおいては、人間の感情を読み取り、共感をもって反応することができる人工知能(AI)アシスタントが必要となる可能性がある。AIが宇宙船の乗組員の要求をくみ取り、乗組員の精神的健康が危険な状態にある場合に介入させようというアイデアだ。
スタンリー・キューブリックがSF映画「2001年宇宙の旅」で登場させたコンピューター「HAL 9000」のせいで、宇宙におけるAIのイメージは不幸な状況を連想させる。だが、米国航空宇宙局(NASA)はすでにさまざまな種類の多数のデジタルアシスタントを導入している。たとえば、国際宇宙ステーション(ISS)の宇宙飛行士は最近、IBMが開発した感情を察知できるメディシン・ボールほどの大きさのロボット「サイモン(CIMON:クルーと意思疎通可能なモバイルコンパニオン)」を迎え入れた。サイモンは3年間にわたり、さまざまな作業や実験でクルーを手助けする(導入の結果は今のところばらばらだ)。
NASAジェット推進研究所(JPL)の最高技術責任者(CTO)であるトム・ソダーストロムは、現在のロボットは感情的知性が欠けていることが原因で進化が行き詰まっていると語る。そこでJPLは現在、オーストラリアのテック企業であるエイキン(Akin)と組み、将来、宇宙ミッションで宇宙飛行士を情緒的にサポートできるAIを開発しようとしている。「エイキンとの仕事にはわくわくしています」とソダーストロムCTOは言う。「我々が作ろうとしているのは、宇宙船内の温度や進む方向をコントロールし、あらゆる技術的問題を見つけ出し、人間の行動をも監視できる知性を持つアシスタントなのです」。
エイキンのリーゼル・イヤーズリーCEO(最高経営責任者)によると、彼らの目標は、AIが単純にタスクをこなしたり、アレクサやシリ(Siri)のようにリマインダーをセットしたりすることではない。共感的なサポートができる仲間として機能することだ。「考えることができるロボットを想像してみてください。『メアリーは今日ちょっと調子が悪いようです。同僚に対して少し素っ気ないように感じます』という感じで …