スタートアップのヘッジファンド企業ニューメライ(本社サンフランシスコ)には7500人もの開発者がいる。ライバルと比べて異常なほど大きいが、さらに異例なのは、スタッフは完全に匿名でもよいことだ。
テッククランチの記事によれば、ニューメライは暗号化された取引データを登録済みのデータ・サイエンティストに送信する。それぞれのデータ・サイエンティストは、データに基づいて予測するそれぞれの機械学習手法を開発しており、予測結果をニューメライに返信する。予測結果で利益が出れば、データ・サイエンティストは報酬をビットコインで受け取る。
バズワードがちりばめられた事業内容は、いかにもベンチャーキャピタリストの浮かれた夢のようだ。しかし、創業者のリチャード・クレイブによれば、1年間の取引では利益が出ているという。ニューメライは最近の資金調達ラウンドで600万ドルを確保した。つまり投資家は、この夢に少なくとも持続性があると考えているわけだ。
アルゴリズム取引はヘッジファンドで珍しくないし、ニューメライ以外にもビジネス手法に人工知能を取り入れている会社はある。機械学習であれば、人間には膨大な時間がかかる大量のデータを投入しても処理できる。従来のアルゴリズムには無理な話だ。機械学習はニュース記事やソーシャルメディアの動向等、構造化されていないデータからも値動きのヒントを得て、トレンドを発見できる。
実際、多くのヘッジファンドがAI(人工知能)に大規模な投資をしている。当然の成り行きで、今年、ヘッジファンド業界はそれほど成果が出ないにもかかわらずAIに高値を付けたことで多くの関係者の批判を受けた。だが、機械学習はトレンドを見つけるよいアイデアのようでいて、AIシステムが長期的にどれほどうまく機能するかはまだわからない。たとえば、AIは金融市場でありふれた不確実性やノイズの影響を受けやすい。
ニューメライの独特の事業手法からは、独特の疑問もわいてくる。従業員が匿名であれば、たとえば、ニューメライに値動きの予測を送信したデータ・サイエンティストが、他の会社や組織と関わっていて、値上がりを見越した行動を取るような利益相反があっても気づけない。また、ワイアードの記事にあるとおり、ニューメライの暗号化では、受発注の基礎情報が外部に伝わることになり、取引の速度と安全性のバランスを崩しかねない。
それでも、何かの刺激が欲しいヘッジファンド業界にとって、大量のデータ・サイエンティストの投入は興味深い手法だ。もしかすると、ウォール街もすぐに自分たちの匿名データ・サイエンティスト軍団を編制するかもしれない
(関連記事:TechCrunch, Wired, Financial Times, “Crunching for Dollars,” “Will AI-Powered Hedge Funds Outsmart the Market?)