中国のテック企業大手が開設したAI研究所は、すぐに、先行するグーグルやフェイスブック、バイドゥ、アマゾンといった企業の研究所と肩を並べるだろう。
中国南部の深セン市に本社を置くテンセントは、ソーシャルモバイル・アプリとして人気があるWeChatやQQなど、さまざまなオンライン・モバイル事業を展開している。テンセントが今年4月に立ち上げたAI研究所も急成長中だ。テンセントはAI研究者や採用担当者、事業責任者の一団をAI業界で最も有名なイベントである「神経情報処理システム」カンファレンス(スペインのバルセロナで先週開催された)に派遣した。
中国の消費者向けテクノロジー業界では、真のイノベーションの促進を狙って、より基礎的な研究に舵を切ることが相次いでおり、テンセントがAI研究に乗り出したのも、この流れで捉えられる。ネット市場が成熟するにつれ、中国国内の大手会社は、イノベーションを起こした企業の模範ではなく、テクノロジーのリーダーになることを目指している。欧米のテック企業はAI研究によって実現した製品を次々に提供しており、中国の競合企業もAI分野で競おうと準備を進めている(「3度目の「人工知能・冬の時代」はたぶん来ない、とバイドゥの主任科学者が確信する理由」参照)のだ。
テンセントは、個人向けのニュースの推薦や検索機能などで、自社製品に機械学習を導入済みだ。AI分野への投資によって、テンセントは既存製品を改善したり、革新的な新製品を開発したりしやすくなるだろう。
テンセントでAI研究所とAIプラットフォームグループを率いるシン・ヤオ副社長によると、テンセントのAI研究所には約30人の研究者が在籍し、ほとんどが博士だという。研究者の数はグーグルやフェイスブックが運営する研究所に比べるとやや少ないが、テンセントは研究者をすぐに増やし、来年から主要なカンファレンスで独自の成果物の発表を始めようとしている。
現在、優秀なAI人材の採用は最先端の製品を生み出そうとするすべての企業の大問題だ。この点に関してヤオ副社長は、中国企業は大きな強みがあると考えている。
「機械学習分野の研究者は中国出身者が多く、中国企業には非常によい機会があります。才能ある人物を獲得する観点では、中国企業にはそうした人物を惹きつける機会は大きい、と実際思います」
WeChatやQQは中国で広く使われており、コミュニケーションだけでなく、ゲームやモバイル決済、ニュース閲覧やエンタテインメントも利用できる (“WeChat Is Extending China’s School Days Well into the Night”参照)。
ヤオ副社長はカンファレンスで「10年前なら、中国企業は米国の真似をしているといえたでしょう。しかし、中国は発展し、製品は、模倣からイノベーションに移行しました。中国は米国企業が実際に考えもしなかったような多くのことを考えました。WeChatがその本当に素晴らしい実例です。また、中国は製品のイノベーションに加えて、研究や、物事の基本的な面に深く関わろうとしています。次世代のプラットフォームであり、大きなブームであるAIこそ、当社が参入したい分野なのです」と、通訳を通して語った。
テンセントは11月に発表した最新の四半期決算で、WeChatの月間アクティブユーザー数が8億4600万人を突破し、QQのユーザー数が8億7700万人に達したと明らかにした。この数値は、中国全土のオンライン市場の人数を超えているのは、ユーザーが異なる電話番号で複数のアカウントの登録できるからだ。
人工知能の専門技術を強化している中国企業はテンセントだけではない。10月に米国政府が発表した報告によると、最も成功している機械学習の手法である「深層学習 」に言及した中国の論文数は、米国出身の研究者が発表した数を最近上回ったという。中国の主要検索エンジンであるバイドゥは、AI専門の研究所を数年間運営しており、基礎的な進歩を定期的に発表している。
米国のテック企業は、成長している東洋出身のAIの競合相手から目をそらさないのが賢明だろう。「当社は世界規模の研究所を作り出そうと努力しています。そして、それを後押しするだけの忍耐と資源を当社は十分に備えています」とヤオ副社長はいう。