パーソナライズされたがんワクチン、白血病の再発を防ぐ
小規模の臨床試験だが、試験に参加した患者の大部分が、致命的な種類のがんから4年以上寛解の状態になっている。 by Emily Mullin2016.12.08
ニューヨーク州クーパーズタウン在住のアーネスト・レビーは、2010年のワールドカップを見に息子と南アフリカへ旅行し、帰国直後に急性骨髄性白血病と診断された。予後は現在76歳のレビーにとって辛いものだった。成人の患者が骨髄を冒されるタイプのがんを発症したあとの5年生存率は、4分の1を超える程度しかない。
レビーは、急性骨髄性白血病のがんワクチンを試験中のベス・イスラエル・メディカルセンター(ニューヨークにあるハーバード大学医学大学院の付属病院)による臨床試験に参加した。ヘマトロジカル・マリグナンシーズの責任者で、ベス・イスラエルでがんワクチンプログラムを監督しているデビッド・アビガン医師によれば、化学療法の最初の段階のあと、レビーと他の試験参加者は、がん細胞を異物とみなして攻撃するように免疫細胞を「再教育」する免疫療法の一種である実験的なワクチンを接種された、という。
現在の臨床試験の結果は、ワクチンによってがん細胞に対する強力な免疫反応が活性化され、患者の大部分(レビーも含む)を再発から守っていることを示している。ワクチンを接種した17人の患者(平均年齢は63歳)のうち、12人がワクチン接種後4年以上、現在も寛解の状態にある、とアビガン医師とダナ・ファーバーがん研究所の共著者は報告している。研究者は急性骨髄性白血病の細胞をワクチン接種後に認識する、免疫細胞の拡張されたレベルを発見したのだ。その結果は現在、サイエンス・トランスレーショナル・メディカル誌に掲載されている。
一般的に、急性骨髄性白血病は化学療法の組み合わせで治療されるが、がんは最初の治療のあとしばしば再発し、高齢の患者は特に再発する可能性が高い。
治療的がんワクチンは、T細胞と呼ばれる免疫細胞を作動させ、がん細胞を認識し攻撃するように仕向けるか、あるいはがん細胞の表面にある分子に結びつく抗体を生み出すよう刺激することで作用するように設計される。しかし、効果のある治療的がんワクチンの製造が難題であることは、多くのワクチンが臨床試験で完全に失敗するか、ごくわずかな生存率の増加しか実現できなかったことでわかる。今のところ、米国の食品医薬品局(FDA)は、前立腺がん用のプロベンジと、転移性黒色腫を持つ一部の患者の治療用であるイムリジックの2つの治療的がんワクチンを承認している(“10 Breakthrough Technologies 2016: Immune Engineering”参照)。
アビガン医師のチームは、白血病細胞を患者から採取し、患者が伝統的な化学療法を受けている間に保存用に凍らせてパーソナライズされたワクチンを作成した。その後科学者はがん細胞を解凍し、樹状細胞と、抗腫瘍のT細胞を浴びせる免疫細胞とを組み合わせた。ワクチンの製造には約10日かかり、投薬が可能になるまでにはさらに3〜4週間かかる。
多くのがんワクチンの手法は、単一の標的か抗原に的を絞ってきた。注入によって抗原が体内に広まると免疫反応を引き起こし、体はがん細胞の表面と同じ抗原を認識して攻撃するT細胞を生成しはじめる。アビガン医師のチームが作ったワクチンは、より強い効果のある手法を生むために多くの抗原を含んだ細胞の混合物を使う。
臨床試験に参加した患者の人数は少ないが、アビガン医師は、研究者がさらに多くの患者を含めるよう臨床試験を拡大するには「十分に刺激的な結果でした」という。パーソナライズされたワクチンの手法は他のタイプのがんでもすでに試験が始まっている。
- 人気の記事ランキング
-
- These AI Minecraft characters did weirdly human stuff all on their own マイクラ内に「AI文明」、 1000体のエージェントが 仕事、宗教、税制まで作った
- Google’s new Project Astra could be generative AI’s killer app 世界を驚かせたグーグルの「アストラ」、生成AIのキラーアプリとなるか
- Bringing the lofty ideas of pure math down to earth 崇高な理念を現実へ、 物理学者が学び直して感じた 「数学」を学ぶ意義
- We saw a demo of the new AI system powering Anduril’s vision for war オープンAIと手を組んだ 防衛スタートアップが目指す 「戦争のアップデート」
- エミリー マリン [Emily Mullin]米国版
- ピッツバーグを拠点にバイオテクノロジー関連を取材するフリーランス・ジャーナリスト。2018年までMITテクノロジーレビューの医学生物学担当編集者を務めた。