世界中で高齢化が急速に進んでいる。現在、米国では65歳以上の人口の割合は16%だが、2035年までには21%となり、その時点で65歳以上の人口は18歳未満の人口を上回るだろう。中国では若い年代の人口が減少しているにもかかわらず、1979年に導入された一人っ子政策の施行以前に生まれた高齢者人口が増え続けている。他の国々ではさらに高齢化が進んでいる。人口の4分の1以上が65歳以上の日本が1位だが、ドイツやイタリア、フィンランドといった欧州連合(EU)の大半の国もいい勝負だ。欧州と北米の人口の4分の1は、2050年までには65歳以上になる。
この傾向は、低い出産率(ほぼすべての国の女性の出産率が低い)と、より長くなった寿命に牽引されている。近年では一部の先進国での平均寿命が低下しているが、世界全体では伸びる傾向を示し続けている。今日、日本で生まれた女の子は、平均で87歳まで生きることが予測されているのだ。
人口が全体的に高齢化しているということに加え、おそらく高齢化してからの人生が長くなるだろう。1960年に65歳だった人の寿命はおよそ79歳だったが、最近の平均寿命は85歳近くになっている。もうすでに75歳の人なら、87歳まで生きると予測される。
高齢化は、私たちの経済、社会および文化的な価値、そして自らの人生を設計し、受け止める方法でさえも大きく変える。
型通りの言説は、人口の高齢化が経済成長に悪影響を及ぼすというものだ。誰がこれまでのすべての仕事をするのだろうか? 老人の医療費や福祉制度にお金を出すのは誰なのだろうか? 経済学では、就労するには高齢または若すぎる人々と労働年齢人口の規模との関係を「依存人口比率」と呼ぶ。そして経済学者はこの人口危機が、私たちをいかに苦しめるのか、という恐ろしい予測を見せたがる。
「シルバー・ツナミ(Silver Ttsunami)」「人口統計の崖」「人口統計の時限爆弾」といったこれらの警告は、どれも不吉なものに聞こえる。だが、真の理想的ではない年の取り方とは、免れることのできない危機についてくよくよすることなのだ。
高齢化社会は困窮ではない
真実は、経済学者は、人口の高齢化が私たちにどのような悪影響を及ぼすのか、あまり知らないということだ。
「生産性に影響を与えつつあります」というのは、ハーバード大学の経済学者、ニコール・マエスタス博士だ。「重大かつ経済的に意味があります」。マエスタス博士と同僚が1980年から2010年までのデータに基づき、60歳以上の人口が10%増加すると、1人あたりGDP成長率が5.5%低下すると試算した。過去の教訓を生かせば、高齢化し続ける米国の人口がこの10年間の米国の経済成長を1.2%減速させ、次の10年間では0.6%減速することを意味している。理由の一部は就労人口が減少するためだろうが、その3分の2は生産性が平均的に低くなるからなのだ。
しかし、マエスタス博士は、この予測が歴史的傾向に基づくものであり、正確な予測ではない可能性があると警告している。マエスタス博士は生産性が加齢とともに低下するのは、 最も熟練し、経験豊富な人々はより大きな成功を収め、裕福で、引退できる余裕があるからだろうと推測している。もしマスタス博士が正しければ、労働者の生産性が老化に伴って低下するのではなく、最も生産性の高い労働者が働かなくなるからだ。
マエスタス博士によると、これは生産性の大幅な低下は不可避ではないことを意味するという。新しいテクノロジーや経営方針により、才能ある人々はより長く働き続けられる可能性がある(幸福度が低くなり、貯蓄も少なくなり、退職金制度もなくなる可能性がある)。若い人々と年配の人々で構成される多様な経験があるチームは、さらに生産性が高まる可能性がある。「私たち全員の生産性が低下し、そのままで立ち往生するのでしょうか? 必ずしもそうではありません」(マエスタス博士)。
「高齢化に関するあらゆるストレスにも関わらず、驚くことに、高齢化社会が経済的に劣化しているという証拠はほとんどありません」と話すのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の経済学者、ダロン・アシモグル博士である。 アシモグル博士とボストン大学のパスクワル・レスト …