何十年もの間、ハリウッドはコンピューターを魔法の箱とみなし、コンピューターの専門家にとってはあり得ない、ありとあらゆる劇的な展開を生み出してきた。テレビや映画で、データセンターの入り口は海中の取水口しかなく、暗号文は汎用の暗号鍵で解読でき、メールの文字は1文字ずつ、すべて大文字で届く。現在USAネットワーク(NBCユニバーサル傘下のケーブルテレビ局)で第2シーズンを放送中の『ミスター・ロボット』の初期エピソードでは、登場人物のロメロがこう吐き捨てる。
「ハリウッドが描くハッカーはクソだ。この稼業を27年やってるが、アニメキャラが歌いだすウイルスなんて見たことねえ」
私たちがコンピューターに対して抱いているバカげたイメージのせいで、何十年もの間、さまざまな悪影響があった。ミスター・ロボットは、ポップカルチャーで描写されるコンピューターやハッカーの転換点であり、その到来は遅すぎたくらいだ。
ミスター・ロボットの各回は、放送の約1年前に起きた出来事を時系列順にたどる形で、最近の実世界でのハッキングや情報漏えい、情報セキュリティ上の大失態が引用される。ミスター・ロボットでハッカーがハッキングするときの会話は、本物のハッカーの会話にそっくりだ。ブラックハットやデフ・コンなどのイベントに登壇するハッカーのプレゼンテーションは、YouTubeでいくらでも見つかるのだから、こうした会話をドラマのセリフにするのはそう難しくなかったはずだ。しかし、大手メディアがハッカーの会話のリアリティを重視したのは、ミスター・ロボットが初めてなのだ。
https://www.youtube.com/watch?v=g6gG-6Co_v4
ミスター・ロボットは会話だけでなく、アクションも素晴らしい。実際のハッキング行為が退屈なのは仕方がなく、まるで空港のチェックインカウンターの係員が、フライト予約を変更するのを見ているようだ。意味不明の文字列をターミナルに打ち込み、眉をひそめて首を横に振り、またタイプして、眉をひそめ、もう一度タイプして、やっと笑顔になる。スクリーン上には、勝利の証として、最初と多少違うメニュープロンプトが表示される。しかし、このドラマはハッキングの人類学的側面をとらえ、その魅力を最大限に引き出した。ハッカーが計画の目標を定め、その方法を練る姿は、社会史に類を見ないものだ。なぜならハッキングは、過去の地下運動と異なり、緻密で継続的でグローバルなコミュニケーションに立脚するからだ。そこにはまた、激しい勢力争い、技術的・戦術的議論、倫理的課題も存在する。こうした要素はミスター・ロボットのほとんどのエピソードに組み込まれている。
ミスター・ロボットは脚本で技術的リアリティーを追求した初めての作品ではないが、放送開始のタイミングが絶妙だった。2014年、USAネットワークがミスター・ロボットのパイロット版をシリーズ化するかどうか検討している最中に、ソニーピクチャーズエンターテインメントの大規模ハッキングが起きたのだ。侵入者は公開前の映画から私的なメール、財務機密書類に至るまで、なにもかもをWebに流出させ、ソニーを訴訟と屈辱と辛辣な批判に晒し、現在もその影響は尾を引いている。「ソニーのハッキングによって上層部がシリーズ化に前向きになった」というのは、脚本とテクノロジープロデュースを手掛けた元コンピューター科学者の脚本家、コー・アダナだ。アダナによれば、ハッカーが実際にコンピューターでやっていることには十分なドラマ性があり、正確性を徹底して追求するだけの価値がある、と考えるに至ったのは、ソニーのハッキングがあったからだ。
機は熟した。これまでずっと、コンピューター・オタクが「ハリウッドOS」と呼ぶ、コンピューターが不可能を可能にして強引にプロットを成り立たせてきた弊害は、駄作映画を数えるだけでは済まない。視聴者はコンピューターにできること、できないことの区別に混乱をきたし、恐れる必要のないことを恐れるようになった。議員は劣悪な法律を立案し、実際の被害がもたらされてきた。
最悪のテクノロジー関連法
1983年、マシュー・ブロデリックの初主演作『ウォー・ゲーム』で、頭が切れ暇を持て余したシアトル在住の高校生デヴィッド・ライトマンは、初期のモデムを備えた自分のコンピューターで電話番号を自動ダイヤルしてシステムをハッキングし、遊んでいた。やがて正体不明のシステムにつながり、ゲーム開発会社の社内ネットワークだと思い込んだライトマンは、危うく第三次世界大戦を起こしかける。「ゲーム会社」は実はペンタゴンで、ライトマンが始めた「世界全面核戦争」ゲームは、数千発の大陸間弾道ミサイルをソ連に向けて発射する自動核反撃システムだったのだ。
https://www.youtube.com/ …