ロボット・クアッドコプターが格安での無重力飛行を実現するかもしれない
低コストで無重力状態を作り出す実験環境を科学者は切望してきた。自律型クアッドコプターで可能になるかもしれない。 by Emerging Technology from the arXiv2016.12.07
「嘔吐彗星」は、妙な名前がついた航空工学上の成果だ。放物線飛行により無重力状態を体験できる航空機のことで、約25秒間の無重力状態を利用して宇宙飛行士を訓練したり、一般人が無重力を体験したりする。別の利用方法もある。映画『アポロ13』の無重力シーンはすべて「嘔吐彗星」機内の無重力下で撮影されたのだ。
「嘔吐彗星」は科学者による微小重力下の実験にも利用できる。だが利用料は1kgあたり最大3000ドルもかかるし、何カ月も前から、時には何年も前に予約する必要があるから、何かの理由で実験が失敗しても、やり直しは難しいことが多い。
ドロップタワー(遊園地にある落下系アトラクションの科学版)も別の選択肢だ。高い塔を建てて高い場所から落とすだけなので何度も使えるし予約も簡単だが、科学実験に適した塔を建てるには途方もない費用がかかるだろう。
最後の選択肢は国際宇宙ステーションや特注の宇宙船だが、法外な金額になるので、現実的にはあり得ない。
というわけで、高額な方法に頼らず、原理実証用の設計を試験できるだけの安くて早い方法があれば、科学者は大喜びするだろう。
12月6日、ジョージア工科大学(アトランタ)のフアン・パブロ・アフマン研究員のチームによって、科学者は望みどおりの方法を手に入れようとしている。研究チームは、自律型クアッドコプターで、短い時間、無重力状態を作れると思いついたのだ。この方法は非常に柔軟性があり、簡単に繰り返せるし、何より安価だ。
研究チームの目標は明確で、最低でも5秒間の自由落下を実現することだ。規制の範囲で実施できて、システム費用を総額2万5000ドル以下に抑えたい。
簡単な話ではない。クアッドコプターを空高く飛ばしてモーターのスイッチを切っても、落下中の空気抵抗のせいで無重力状態は発生しないとすぐに判明したのだ。
さらに悪いことに、回転翼にかかる力が機体をひどく不安定にさせてしまい、スイッチを入れ直しても機体のバランスは取り戻しにくい。「推力がゼロに近く、操作中に機体を正しい角度で維持できず、散々な結果だった」と研究チームはいう。
問題は、ほとんどのクアッドコプターで一般的に使われている回転翼は回転面が固定されており、無重力状態を維持したり自由落下中に機体を安定化させたりする十分な力を作れないことだ。そこで研究チームは常に三次元で機体を制御するために、独自の可変ピッチ回転翼を設計せざるを得なかった。
もちろん規制もある。そもそもヨーロッパとアメリカの航空規制で、クアッドコプターは120m以上の高度の飛行が禁じられている。さらに機体重量は25kg以下に規制されているため、実施可能な実験は狭められた。
だが、研究チームは、機体を完全に制御しながら最大5秒間の無重力状態をつくり出す軌道の設計に成功した。
また研究チームは安全性確保のために、クアッドコプターが決して超えてはならない地理的範囲を「地理的フェンス」として定め、一定の条件下での安全性を保証した。さらに、いつでも機体が電源を喪失した場合を想定し、どこまで機体が飛行するかも考慮した。
また研究チームは、ユーザーが実験のために、さまざまな無重力時間プロファイルの軌道を設計できるソフトウェアも開発した。
地上での準備に膨大な時間を費やしたが、研究チームはまだ無重力飛行には成功していない。回転翼の設計の遅れが主な理由だ。開発されたクアッドコプターがどれほど優れているかは、2016年の終わりに無重力飛行を実現させると断言している研究チームの言葉を信じるしかない。
この研究は、無重力下の研究には期待の大きな一歩だ。このシステムはさまざまな研究機関に手が届く価格で提供可能で、もしかすると学校でも購入できるかもしれない。今後、無重力下での実験に新たに注目が集まるだろうし、実験しても吐く心配はしなくてよさそうだ。
参照:arxiv.org/abs/1611.07650: 微小重力を発生させる自律飛行ロボットの設計と最適化について
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