「滅びの香り」はセクシー? 絶滅植物のDNAで香水製造
合成生物学者が、絶滅した木や花から香水を作り出そうとしている。 by Monique Broulette2016.12.06

合成生物学企業のギンコ・バイオワークス(Ginkgo Bioworks)は、200年前に絶滅した植物の匂いがする香水シリーズを開発しているという。
ギンコの計画では、自社がボストンで運営する遺伝子工学の大きな施設「DNA工場」で、絶滅した植物のデオキシリボ核酸(DNA)を移植した酵母菌で香りを作る。
「人工繁殖」に興味を示す科学者が遺伝子工学を活用して、マンモスやリョコウバトを生き返らせるまでの道のりは程遠い。それに比べ、絶滅した香り分子の再生には、現実味がある。
ギンコのクリエイティブディレクター、クリスティーナ・アガパキスは「植物を生き返らせるつもりはありませんが、絶滅した花の香りを感じることで、失われた植物のありがたみを人々がより一層感じられるよう期待しています」という。

香水作り全般と同様、この取り組みは芸術的であり、科学的なプロジェクトだ。だが、市販用の香料を酵母菌の入った大桶で製造するのは、もはや一般的だ。たとえば、トム・フォードのパチョリ・アブソルーで使われているパチョリの香料は、遺伝子を組み換えた酵母細胞で作られている。製造したのは、カリフォルニア州エメリービル合成生物学企業アミリス(Amyris)だ。
ギンコは今年約1億ドルの資金を獲得し、植物の生化学的プロセスを再現する酵母菌から、芳香性化合物「テルペン」(芳香性のある植物油から発見された炭化水素分子)を作った。一般的に、テルペンの香りは強く、オレンジの皮のようなキリッとした柑橘類の匂いや、ライラックのような花の匂い、あるいはミントのようなメントールの匂いがある。

テルペンを作り出す新たな遺伝子を見つけようと、アガパキスのチームは今年5月、ハーバード大学標本館(500万を超える植物標本が保管されている)の保存文書を徹底的に調べ上げた。アガパキスは、過去200年間で絶滅したハワイ原産ハイビスカスやセントヘレナ原産のオリーブ植物のサンプルを数十個選んだ。セントヘレナオリーブは、南太平洋にあるセントヘレナ島原産のオリーブの低木で、野生では1994年に姿を消し、2003年に絶滅した。
不完全ではあるが、次の課題は絶滅した植物のDNA分子を復元することだ。分子の復元のため、アガパキスが選んだサンプルは『マンモスのつくりかた』の著者であるカリフォルニア大学サンタクルーズ校のベス・シャピロ准教授に届けられた。シャピロ准教授は古代DNAの専門家で、北極圏の永久凍土から動物の骨を発掘し、古代DNAのシーケンシング手法を完成させた人物だ。
代謝工学のエンジニアで、アミリスのジェイ・キースリング共同創業者は、このプロジェクトでは「自然では入手できない新たな分子をいくつか発見できるかもしれない」という。しかし、香りはテルペンだけでなく「植物中の他のあらゆる分子が関係している」ため、植物がどのような香りだったかは突き止められないという。
(アイザック・シンクレアは、ドイツの香料メーカーシムライズの調香師で、ギンコと協業しているが、最終的な香りは個人の解釈次第であり、市販の香水を作る技術しだいだという。)
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クレジット | Images courtesy of Ginkgo Bioworks |
- monique.broulette [Monique Broulette]米国版
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