ワイングラスの底をじっと見つめることがある読者にはおなじみの、神秘的な現象がある。ワインは、グラス内側の表面を上昇したあと、涙のように滴り落ちることがあるのだ。何百年も前から観測されてきた、いわゆる「ワインの涙」と呼ばれるこの現象は、どのようにして起こるのだろうか?
2019年9月、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のヨナタン・ダクラー特別研究員の研究チームは、「ワインの涙」の謎の一部を解明した。ダクラーの研究チームは、献身的かつ熱心にこの現象を研究し、答えを見つけたという。
「ワインの涙」を見るには、まず、アルコール度数の高いワインをマルティーニグラスに少量注いでみよう。そして、ワインの液面から薄層がグラス内側の表面を上昇していく様子を観察しよう。
物理学の偉人の中にも「ワインの涙」に興味を持った人は当然多かったので、この現象は詳しく解明されている。米国人科学者のウィラード・ギブズは、1875年に「ワインの涙」を完全に説明する理論を発表した。
ギブズの理論の一部は、ケルヴィン卿の兄、ジェームズ・トムソンによる20年前の研究に基づいていた。トムソンは、ワインは水とエタノールの混合物であり、水の表面張力がエタノールよりも大きいために「ワインの涙」現象が生じることを発見した。
ワインは最初、毛細管現象によってグラス内側の表面を上昇する。毛細管現象は、表面張力によって液面がガラス容器の垂直な壁面に押し上げられるときに発生する。
ワイングラスでは、グラスの壁面に押し上げられたワインの薄層はすぐに蒸発し始める。アルコールは水よりも速く蒸発するので薄層のアルコール度数は低くなり、水の濃度が高くなる。その結果、薄層の表面張力は、グラス内のワインよりも高くなる。
薄層とワインの表面 …