SFファンにとって、映画『インターステラー』(2014年公開)は特別な存在だ。2017年のノーベル物理学賞を受賞したキップ・ソーン博士が製作総指揮兼科学アドバイザーを務め、同作品では物理学の法則に背く描写は一切なく、大胆な推測は科学的根拠のあるものだと約束しているからである。
その映画では、地球は居住不可能な環境に近づきつつあり、人類は他に住む星を見つけなければならない状況にある。幸運にも天文学者は、土星の近くにワームホールを発見した。このワームホールは、彼方の超大質量ブラックホール「ガルガンチュア」に通じる時空トンネルになっているのだ。
ガルガンチュアの周囲をさまざまな惑星が公転している。米国航空宇宙局(NASA)はその中に居住可能な惑星を発見できることを期待して、複数の惑星探査ミッションを送り込んでいる。
『インターステラー』でのブラックホールの描写などの科学的な正確さに関して、多くの記事が掲載され、そのほとんどが大絶賛している。理論物理学者のミチオ・カクは、今後のSF映画を評価するときの規範となる作品だと評した。
しかし、そもそも、居住可能な惑星が超大質量ブラックホールの周りを公転することは可能なのだろうかという問題が残る。その答は、米メリーランド州グリーンベルトにあるNASAゴダード宇宙飛行センター(Goddard Space Flight Center)に所属するジェレミー・シュニットマン博士らが先だって発表した研究論文により、明らかになった。
シュニットマン博士は、軽い気持ちでこの問題に取り組み、超大質量ブラックホールの近くを周回する惑星に生命の繁栄に適した環境が存在することは可能かどうかを算出した。そして、驚くべき結論が導き出された。
最初に基礎的な知識について説明しておこう。宇宙生物学者は長年、地球に存在するような多様な生命体が存在するために必要な条件について議論してきた。基本的な要件の1つとして液体の水の存在は大筋で合意されている。そのことから、居住可能な惑星の温度が制約される。
シュニットマン博士は、どのような種類のエネルギー源が、ブラックホールを周回する惑星上において、この温度条件にかなう熱を生成できるか研究した。そのようなエネルギー源は地球のエネルギー源とは完全に異なる必要がある。
地球上の大気温度は、大気を加熱する太陽から吸収するエネルギーと、地球から放出されるエネルギーとのバランスの結果だ。このバランス関係はとても複雑なことがわかり、気候科学という独自の学問分野が生み出されたほどだ。
とはいえ、太陽がなければ、太陽からの入射光は消え、地球上の生命体が必要とするほとんどすべてのエネルギーが失われる。「一定の熱流束がなければ、海洋はおそらく数日で凍結するでしょう」とシュニットマン博士は言う。
しかし、超大質量ブラックホールを周回する惑星には、太陽以外のエネルギー源が数多く存在することがわかった。最も明白なのは、超大質量ブラックホールが暗闇ではないということだ。「ブラックホールに関する知識は、ブラックホールに吸い込まれるガスから発生される電磁放射を観察することで得ら …