作物の病気治療にウイルスを使う研究をDARPAが計画中
病気に耐える遺伝子組み換え作物の開発には時間と費用がかかる。作物の遺伝子を改変する昆虫を活用したほうが早いかもしれない。 by Emily Mullin2016.12.05
枯れかけた病気の作物は、近い将来、昆虫を田畑に放てば治せるかもしれない。
遺伝子工学の手法により、壊滅的な病気に対して、従来種よりも強い植物種はすでにある。しかし、成長した作物を植物病がひとたび襲えば、農薬はそれほど役に立たず、迅速に対応する手段もない。
この問題に対処するため、米国国防先端研究計画局(DARPA)は、昆虫と植物の自然な関係を利用しようとしている。DARPAは、昆虫を使って、餌になる植物に有益な遺伝形質を伝えるウイルスを感染させようとしているのだ。
DARPAでプログラムの責任者を勤める科学者のブレイク・ベクスティンは「DARPAは米国内や世界で、食物の供給を安定化する手段を開発したいのです」という。
DARPAは遺伝子療法の手法で、病気になった作物を保護し、回復させようとしている。作物は自然に病気になることもあるが、他の生物の影響で病気になることもある。遺伝子療法では、病気の症状を消したり緩和したりするために、無害なウイルスを媒体に、新しい遺伝物質を植物の細胞に届ける。昆虫は本来、ほとんどの植物ウイルスの運び屋であり、科学者の考えでは、植物を守る遺伝子を植物から植物に運ぶ。昆虫の成長は早いので、植物が育つ季節のうちに繁殖させて野に放てる。
DARPAは、成長した作物に遺伝物質を届けて感染させる植物ウイルスを開発するために、大学や産業界の科学者からの提案を求めている。その後、開発したウイルスをどの昆虫で運ぶかを決めなくてはならない。研究者はこの手法をグリーニング病(昆虫を媒介に感染し、過去10年間、フロリダではこの病気が原因でかんきつ類の多くが被害を受けた)という細菌性疾患の治療に使おうとしている。オクラホマ州立大学の微生物調査・食糧農業バイオセキュリティ研究所の創設者であるジャクリーン・フレッチャー前所長によると、DARPAのプロジェクトは遺伝子療法の発展を促すという。
米国ではトウモロコシや小麦、大豆が重要な農作物であり、多くの発展途上国(特にサハラ以南のアフリカ地域)でキャサバ(イモ)は不可欠の作物だ。遺伝子療法のテクノロジーは、こうした重要な農作物に適用するのが理想だろう。
ベクスティンによると、遺伝子療法の手法は、病気のまん延を防ぐために殺虫スプレーを使うより望ましいという。大量の殺虫スプレーを散布してもスプレーは狙った昆虫には決して到達しない。殺虫スプレーは高価で非効率的だし、スプレーは発展途上国では使いにくい手法だ。
現時点で、遺伝子療法は研究室か他の隔離空間で実験される予定だ。DARPAは今後4年以内に遺伝子療法の手法を屋外で実験する準備を整えるつもりだ。
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- エミリー マリン [Emily Mullin]米国版
- ピッツバーグを拠点にバイオテクノロジー関連を取材するフリーランス・ジャーナリスト。2018年までMITテクノロジーレビューの医学生物学担当編集者を務めた。