従来の最も強力なスーパーコンピューターですら実用的な時間内に達成できないタスクを、量子コンピューターが実行できることをグーグルが初めて実証したと報じられている。この偉業は、コンピューティングの世界で「量子超越性」として知られる大きな節目となるだろう。
量子超越性という言葉自体は、2012年に理論物理学者のジョン・プレスキル博士が創作した。不吉な響きを持つこの言葉は、ダースベイダーのような機械が他のコンピューターに君臨しているイメージを想起させる。グーグルのニュースは、インフォウォーズ(Infowars)の「すべての暗号と軍事秘密を破れるグーグルの『量子超越性』」をはじめとする奇妙な見出しの数々を生み出した。政治家たちもその熱狂に加わり、米大統領選候補の1人であるアンドリュー・ヤンは、「グーグルによる量子コンピューティングの達成は大したものです。とりわけ、どんな暗号も解読できるようになったことは素晴らしいことです」とツイートした。
ナンセンスだ。まったくそういう意味ではない。グーグルが達成したことは素晴らしいが、量子マシンが従来のコンピューターを灰燼の山にしてしまうほどのコンピューティングの巨人へといきなり変貌を遂げたわけではないし、従来の暗号が近い将来に完全に無駄になるわけでもない。ただし、長期的には、今から準備を始めなければならない脅威となる可能性があるということだ。
以下は、グーグルが達成したと思われることについての解説と、量子超越性を取り巻く大げさな宣伝に対する解毒剤だ。
グーグルの実験について分かっていること
グーグルの確認はまだ得られていないが、今回の実験に関する情報は、「プログラム可能な超伝導プロセッサーを使用した量子超越性(Quantum Supremacy Using a Programmable Superconducting Processor)」というタイトルの論文に由来する。同論文は、米国航空宇宙局(NASA)のWebサイトに短期間掲載された後、すぐに削除されたが、論文の存在は、フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)紙によって明らかにされた。その論文の写しはこちらを参照してほしい。
この実験はかなり謎めいているが、非常に多くの計算を必要とした。グーグルのチームは「サイカモア(Sycamore)」というコードネームの付いた量子プロセッサーを使い、乱数ジェネレーターからはじき出される数値が本当にランダムであることを証明した。その後、世界で最も強力なスーパーコンピューターであるサミット(Summit)が同じタスクを実行するためにかかる時間を割り出したが、その差は驚くべきものだった。研究者たちは、量子マシンを使って200秒でできた計算を古典的なコンピューターでやろうとすれば1万年を要すると見積もったのだ。
この論文が正式に公開されれば、他の研究者たちによって方法論の穴が指摘される可能性もある。しかし現時点では、グーグルは史上初めて、量子マシンの力が既存の最強のスーパーコンピューターの能力を凌駕したことを示し、コンピューティングの世界で勝ち星 …