ジュノ・セラピューティクス(本社シアトル)の、有望視されている新型がん治療法の臨床試験で、11月に2人の患者が死亡し、患者自身の免疫細胞によるがん治療薬の行く末が疑問視されている。
治験を実施しているジュノは、急性リンパ芽球性白血病の患者2人が治療中に死亡したことを受け、この実験的がん治療薬の治験を感謝祭の直前に停止したと発表した。同じ医薬品の治験で、今年これまでに3人の患者が死亡した。だが同種の医薬品を開発している他の研究者は競って試験をしており、この新医薬品は、ある種の致死性がん患者には驚くほど有望だとわかっている。
CAR-T療法と呼ばれる治療法では、科学者が患者からT細胞を採取し、がん細胞を識別して攻撃するよう体外で遺伝子を操作したT細胞を再び患者に注入する。米国食品医薬品局(FDA)の認可が得られれば、このような治療法は現在利用できる治療法に反応しない、がん患者の命を救えるかもしれない。
昨年、非ホジキンリンパ腫のCAR-T療法で最先端をいくカイト・ファーマは、治験で患者が1人死亡したことを認めたが、死因は治療とは無関係としている。一方で、ノバルティスはある種のリンパ腫のCAR-T療法の研究を進めている。こうした治療法はがん研究の最先端を象徴するが、有害な副作用があり、米国国立がん研究所でもペンシルベニア大学でも、T細胞治験で患者が死亡した。
最近の死亡例にもかかわらず、この方法には効果がある、十分な証拠がある。「個々の患者のCAR-T細胞医薬品は実際に効果があり、とてもよく効くのです」と、設立されたばかりの企業CAR-Tセルのロナルド・ドゥデク社長(リビング・ファーマの創業者で、2013年11月から2014年10月までジュノの営業戦略担当副社長を務めていた)はいう。
問題は、遺伝子操作したT細胞が免疫系を過剰に刺激すると、サイトカイン放出症候群(CAR-Tのような免疫療法の副作用としてはよく知られている)を起こす可能性があることだ。だが、ジュノの治験で死亡した5人の患者全員は、脳浮腫(脳の腫れ)の症状で亡くなった。CAR-T療法の他の治験では、神経学的な副作用が起きたが、ほとんどは短期的な症状だった。
米国国立がん研究所でCAR-T療法を開発している小児がん専門医のテリー・フライによれば、CAR-T療法は治る見込みがないがん患者にとって「現状を打破する」可能性がある。だが、CAR-T療法がどのように働くのか、なぜある患者には神経毒のように深刻な副作用があるのか、科学者は完全には理解していない、とフライはいう。CAR-T治療後に完全に寛解する患者もいるようだが、ジュノの治験での死亡例は、研究者に再考を迫っているとフライはいう。
「患者の多くは、他に治療の選択肢がありませんが、だからといってこの毒性は容認できません」
カイト・ファーマのデイビット・チャン医務部長(研究開発担当上級副社長)は、CAR-T治験での死亡例は「単一の決定的な原因」ではなく複数の要因によって起きた可能性が高いという。ジュノの治験で、成人患者は侵襲性の強いがんだった。
「疾病の進行期なので有害事象に影響されやすいのです」
チャンは、治療薬を作る施設での製造条件が、患者に戻すときのT細胞の状態を変化させ得るという。
ジュノの治験で死亡例が続発したため、CAR-T療法に新たな安全措置を義務づけるようFDAに要請する事態もあり得るとドゥデク社長はいう。たとえば、ベリカム・ファーマシューティカルズ(本社テキサス州)は分子の「オフ」スイッチを持たせたCAR-Tを開発しており、患者が治療に悪い反応を示した場合は、薬を服用して、スイッチを活性化できる。
先週の投資家との電話会議で、ジュノのハンス・ビショップCEOは、今回の死亡例にもかかわらず、同社初のCAR-T療法を2018年に投入することを今でも狙っていると述べた。はっきりしないのは、ジュノが問題のある治験を完全に放棄し、他の治験中のCAR-T療法に専念するかどうかだ。ジュノはリンパ腫や他の血液がんに向けたCAR-Tも開発している。
多くの専門家は、こうした治療法を患者に使う認可を出す前に、FDAはもっとデータを集める必要がある点では同意する。今年これまでに、FDAは研究者が使える安全性データベースを作るよう提案した。だが先週問い合わせたとき、FDAの広報担当者はMIT Technology Reviewに、このデータベースはまだ計画段階だと語った。