ハーバード大学の気候科学者は過去何年にもわたって、反射粒子を散布できる気球の放球の準備に取り組んでいる(「人工的な気候制御で、地球温暖化を緩和できる?副作用は?」を参照)。人類が地球温暖化に対抗するために何ができるのか、知識を深めることが狙いだ。
この名門大学が進めている野外実験が地球工学(ジオエンジニアリング)として知られる分野の大きな節目となる。しかし、この実験は物議を醸している。評論家は、このような動きは、人類が地球の気候を操作できるといの考えを科学的に正当化するのではないかと恐れており、実験をするだけでも、恐るべき力を備えたツールを作るという危険な道のりの始まりだと懸念している。
しかし、こうした評論家の意に反して、ハーバード大学は重要な一歩を踏み出そうとしている。2019年9月に研究者たちは、健康や環境へのリスクを制限し、外部からの意見などを取り入れ、透明性のある運営に向けて適切な措置をとることを確保するための諮問委員会を設立することを発表した。
この動きにより、将来的な地球工学の進め方や、今後実施される数々の実験の道筋を作るための雛型を作れるかもしれない。
ハーバード大学が諮問委員会を設立するという異例の措置をとらなければならなかった理由のうち、少なくとも1つは、米国政府の資金提供による研究プログラムや、こうした提案を取り巻く特に複雑な問題を検討するための公的監督機関が、地球工学の分野に存在しないことが挙げられる。
ジェリー・ブラウン前カリフォルニア州知事の気候アドバイザーで、カリフォルニア戦略成長評議会(California Strategic Growth Council)の専務理事を務めるルイーズ・ベッズワースが、この諮問委員会の委員長を務める。
「本諮問委員会は、 成層圏制御摂動実験(SCoPEx:Stratospheric Controlled Perturbation Experiment)プロジェクトが透明性、信頼性および正当性のある方法で実施されることを保証する体制を設立し、実施するものです」と、ベッズワース委員長は声明の中で述べている。「この体制には、多角的な視点、意見や利害関係者を取り入れるための期待値や手段を確立することも含まれます」。
委員会メンバーのキャサリン・マック准教授(スタンフォード大学環境影響評価機関所長)はインタビューで、諮問委員会は、他の機関や国家がこの領域における今後の他の研究の検討に使用できるような複製可能なモデルを作成したいと考えていると話している。マック准教授は、まだ初期段階にあるものの、諮問委員会は環境および安全性のリスクの科学的検証の範疇を超えて、より広範な問題を検討する意向があると強調している。たとえば、地球工学テクノロジーの研究の追求により、気候変動の原因となる地球温暖化ガスの排出削減に対する圧力を緩和できるかどうかといったことだ。
マック准教授は、諮問委員会が最終的には、提案の変更や遅延、取り消しを推奨する可能性があると言う。また、同准教授の考えるところでは、研究チームはそのような指導を「最大限に厳粛に」受け止めて「世間が納得できる方法で対応」するだろうしている。
しかし、ハーバード大学は、同委員会を設けることで、この問題に関する世間や政治的な議論に向けて突進しようとしているのではないかと考える人もいる。
「これは、監督体制からの承認を待たないことを選んだ、大いに注目すべき機関です」と語るのは、アメリカン大学炭素除去法・政策研究所(Institute for Carbon Removal Law and Policy)の共同所長であるウィル・バーンズ教授だ。
エンジニアリングの観点からいうと、ハーバード大学のチームは、およそ6カ月間以内に最初の試験飛行を準備できる可能性がある。現在の計画では、ニューメキシコ州のどこかの場所から気球が放球される予定だ。しかし、科学者らは、委員会が審査を終えるまで実験を進めることはなく、実験を止めるべきだという決断がなされた場合にはそれを聞き入れると話している。
現実世界での観測の必要性
太陽地球工学の基本的な考えは、飛行機、大気球、または非常に長いホースを使用して、ある種の粒子を大気中に分散させることで、地球を適度に冷却するのに十分な量の太陽光を宇宙に向けて反射させるというものだ。
今日までのこの研究は、そのほとんどがソフトウェアによる気候シミュレーションや、研究所での実験により実施されてきた。ソフトウェア・モデルによると、地球工学の手法で気温は下がるが、場合によっては、季節風のパターンや食料の生産を変えてしまうなど意図しない影響を環境に及ぼす可能性のあることがわかっている。
これまでに実施された太陽地球工学に関連すると考えられる野外実験は2件のみだ。2011年にカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究者がカリフォルニア …