作曲家に悲報?グーグルの作曲AIが創造性を手に入れた
知性を宿す機械

AI Songsmith Cranks Out Surprisingly Catchy Tunes 作曲家に悲報?グーグルの作曲AIが創造性を手に入れた

グーグルの作曲プログラムは、統計的学習と明確な規則を組み合わせて成長する。同じ手法を使えば、コンピューターの専門家は、他の人工知能(AI)プログラムの創造性も改善できるはずだ。 by Will Knight2016.12.01

軽やかに高まり、美しいフィナーレに至るピアノ曲は、歯磨き粉の新商品のCMソングのようだ。

実は、この曲を作ったのはグーグルが開発した音楽人工知能(AI)プログラムだ。プログラムによる最新曲は、強力な機械学習の手法と簡単な音楽規則の組み合わせによって、機械にも創造的な仕事ができ、かなり人間らしい曲が作れることを示した。

作曲は、人間の創造力が発揮される分野だ。作曲プログラムは以前にもあったが、多くの場合は特定の規則に縛られていて、作られた曲は、堅苦しく機械的に聞こえた。同じことは、よく聴く音楽から曲を推薦するソフトウェアにもいえる(“The Hit Charade”参照)。もっと音楽的な創造性が高まるようにコンピューターを教育できれば、商品のデザインや説得力のある文章の作成など、他の創作活動にも機械の助けを借りられる。

グーグルが公開した音楽生成AIは、人工創造性の開発(“OK, Computer, Write Me a Song”参照)を目指す「マゼンタ」プロジェクトの一部だ。巨大なニューラル・ネットワークに、何万曲もの音楽を投入し、次の音を予測するよう訓練する。機械に意思はないので、出だしの部分だけを作曲AIに指定すれば、出だしに続く新しい曲を生成できる。だが、AIが生成した曲は、構成と優雅さにどこか機械ぽさが残る問題がある。

グーグルで音楽作成AIの開発を率いるダグラス・エック研究員は、ナターシャ・ジャックス実習生の助けを借りて、最近、作曲システムがもっと優雅なよい曲を生成する方法を考案した。強化学習の手法を用いて、リフレインは何度も続かない、演奏速度は速くも遅くもしない、といった音楽理論の簡単な原則を、全体的な学習過程に追加した。人工知能は、人間が作曲したパターンに似ている場合や、決められた音楽規則に則って連続音を生成すると報酬を受け、学習が強化される。

「簡単な規則を作曲の教科書から拝借しました。その規則と強化学習を組み合わせ、人間が作曲した数千曲の実例との相違を学び、よい曲が作れるようになったのです。かゆいところに手が届くプログラムです」とエック研究員はいう。

新手法は、確実に自動音楽生成を改善できるだろう。別に作られた曲は、規則がない場合に、プログラムの作曲がどうなるかわかる。平坦で反復的で機械的な感じがするのだ。エック研究員とジャックス実習生は、ユーザー調査によって、新手法で作成された曲は、従来手法よりも好まれることを確認した。

エック研究員は、強化学習に規則を埋め込む手法は、ロボット工学や推薦システム、言語翻訳等、多くの分野で応用できるという。

ルガーノ大学(スイス)のユルゲン・シュミッドヒューバー教授(グーグルの研究者が使うニューラル・ネットワークに関する草分け的な研究で知られ、創造性の実験に、強化学習を使用した)は「好奇心に満ちて、創造性に富んだ機械を作れないはずはありません」という。また、シュミッドヒューバー教授によれば、この手法を使えば、音楽以外の幅広い分野で、実用的アプリケーションを開発できる。

「同様に、ニューラル・ネットワークと、医療診断のための伝統的な規則に基づいたエキスパート・システムを組み合わせてもよいでしょう」

強化学習では、明確な指示によっては達成できないことを、機械に教えられる。たとえばAlphaGoは強化学習で囲碁を打つために、グーグルの研究者が開発したプログラムだ。囲碁のルールは単純だが、上手く囲碁を打つ方法を説明するのは難しい。棋士は、通常、長時間の練習を繰り返して、本能的な能力を身につける。だが、機械学習システムには、明確に指示を与えるほうが役に立つ場合がある。

人工創造性について研究するケベック大学(カナダ)のスティーブン・ハーナッド教授(心理学)は「マゼンタ」プロジェクトの作品は素晴らしいと認めた上で、コンピューターが本物の人間のような創造性を持ち合わせるには、まだまだ時間がかかるという。

「深層学習アルゴリズムには大いに期待できますが、まだ、一般的な段階であり、創造性に乏しい人間の能力も模倣できていません。創造性を求めるのは時期尚早でしょう」

ハーナッド教授によれば、グーグルの人工知能による新作も、何度か聴くと、機械的に感じられることがあるという。