中国で着々と進行するビッグ・データなビッグ・ブラザー計画
中国政府は、全国民にローンから教育まで、すべての適格性を決定するスコアを割り当てようとしている。 by Jamie Condliffe2016.11.30
それは鈍い色をした空が広がる11月の寒い日で、時計が13時をちょうど指した頃だった。一人の女性が杭州駅の改札を素早く通り過ぎようとしていた。といっても、駅員の目には彼女が正規の乗車券を改札機にくぐらせなかったのを見逃さないほどには十分ゆっくりだった。彼女が気づいた時にはもう遅かった。政府が持つ彼女のデータにはブラックマークが記録され、この先彼女はもう以前と同じようには旅行できなくなってしまった。
ジョージ・オーウェルのディストピア小説『1984(Nineteen Eighty-Four)』の冒頭部分をこの記事に合わせて書き直すとこんな感じだろうか。しかし、中国政府が独裁主義的なビッグデータ計画を実現すれば、中国の人々にはこれが現実になる。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、中国政府が現在、国民の社会活動や経済活動のデジタル記録を活用するシステムを試験中と報じた。たとえば旅行や教育、ローンや保険といったサービスを個人がどう利用したかを記録することで、いわゆるソーシャルな信用情報の作成にも使われる。一部の国民(弁護士やジャーナリスト等)は、より重点的に行動を監視されるだろう。
計画を記した文書には、そのシステムは明確に「空の下、善良な国民はどこでも自由に行動できる一方で、疑わしい人間はただの一歩も出回れなくする」ために作られると記述されている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、システムは最初「キセルや信号無視、家族計画法違反といった違反行為」を記録するだけだが、将来的には適用範囲が「おそらくインターネット上の行動にまで」広がる、と報じている。
システムの一部はすでに試験中だ。しかし、そのような遠大な装置の稼働には解決すべき課題もある。すべてのデータを中央に集めて、正確さをチェックし、処理するのは困難だ。たとえば毎日の生活を把握するためのデータをシステムに取り入れるだけでも、中国の14億人分のデータを扱わなければならない。
フィナンシャル・タイムズ紙は、システムはまだ十分に稼働してはいない、と今年前半に報じている。データで善良な国民を見極める国家の計画について、北京大学光華管理学院の王志诚准教授は「中国の国民全員にスコアを付けるには、まだまだ長い道のりが必要です。そのためにはデータの正確性が欠かせません。今のところ、まるでゴミのようなデータを入れたり出したりしているだけです」と述べた。
この程度の問題で官僚は目的の達成を諦めない。中国国民はすでに厳しいインターネット検閲に付き合わされている。また、中国最大のeコマースサイト、アリババの創業者ジャック・マーは最近になって、データ分析で犯罪者を一気に特定するよう電話で政府に要請した。
もし中国が政府機関や各都市、各地域のデータをすべてうまく取り込めれば、全体主義的な国家統治手法を強める政府にとって、このシステムはもうひとつのビッグ・ブラザー戦術になりえるだろう。
(関連記事:The Wall Street Journal, Financial Times, Bloomberg, “The Best and Worst Internet Experience in the World”)
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- ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
- MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。