5年以内に宇宙飛行士を再び月に送るよう米国航空宇宙局(NASA)に指示している——。2019年3月のマイク・ペンス副大統領の発表は電撃的なものだった。2024年までという目標は当初から達成困難との見方があったが、ここへきてNASAとそのパートナーにとって極めて可能性の薄いシナリオへと変わりつつある。
8月20日に開催された国家宇宙評議会(NSC)の会議で、ペンス副大統領とNASAのジム・ブリデンスティーン長官は、NASAの新たな月面ミッション・プログラム「アルテミス(Artemis)計画」の公共部門と民間部門の支援をことさら強調した。ペンス副大統領は、国立航空宇宙博物館のウドバー・ヘイジー・センターで聴衆に向かって「月から火星へのミッションは順調に進んでおり、米国は有人宇宙探査において再び優位に立っています」と述べた。
しかし、ペンス副大統領は月面ミッション・プログラムの実行に障害があり、2024年という目標が達成できなくなるかもしれない深刻な問題については言及しなかった。その障害には、最近になって分かったものもあるが、ドナルド・トランプ大統領の就任以来続いているものもある。以下では、米国の宇宙飛行士による2024年の月面着陸の可能性を拒むと見られる障害のうち、特に深刻なものを5つ挙げる。
予算問題
アルテミス計画の最大の問題は資金不足だ。トランプ政権は2019年5月、NASAの2020年度予算として当初計画から16億ドルとなる226億ドルを要求した。だが、たとえ増額したとしても、この予算ではアルテミス計画のスケジュールを加速するには十分ではないと考える専門家は多い。ジョージ・ワシントン大学宇宙政策研究所の元所長である、ジョン・ログスドン名誉教授は「アルテミス計画の理想と現実との間には、著しいギャップがあります」と述べる。
惑星協会のケーシー・ドレイアーは、2024年という目標を達成するには、今後数年間でNASAは最低でも年間40億から50億ドルの増額が必要になると予測している。他の方法として考えられるのは、NASAのその他のプログラムの資金を大幅に削減し(地球科学プログラムは絶えず予算の危機に瀕している)、アルテミス計画中心のプロジェクトに資金を回すか、ペル・グラント(低所得の大学生向け奨学金)といった他の連邦プログラムの余剰金を回すことだ。
米国議会はNASAがお気に入りだが、アルテミス計画にはそれほど興味がないようだ。民主党が率いる下院でNASAの資金提供を担当する小委員会の委員長は、アルテミス計画の目的に対して懐疑的見方を示している。アルテミス計画にとって朗報なのは、米国議会が他のNASAプログラムや連邦プログラムの予算を削って資金を回す可能性は低いということだ。ホワイトハウスがさらなる資金の増額を要請したとしても、恐らく議会は黙認すると考えられる。
オリオン宇宙船やSLS完成の遅れ
予算の問題により、NASAの深宇宙への野望において最も重要な2つの計画にも不確定要素が生じるようになった。その2つの計画とは、アルテミス計画で利用される「オリオン宇宙船(Orion crew capsule)」と、史上最も強力なロケットになるとの呼び声も高い「スペース・ローンチ・システム(SLS)」である。SLSが2010年に最初に発表された際には、最初の打ち上げは2017年になると予想されていた。このミッションでは、オリオン …