暗号通貨に詳しく、自らの痕跡を隠そうとしているユーザーは、もはやビットコインやそれに類するブロックチェーン・システムに匿名性がほとんどないことをよく知っている。司法当局者はトランザクションを追跡し、取引者の身元を特定できるからだ。
一方で、そうした事態を回避する方法があると確信しているユーザーもいる。捜査官は単一のブロックチェーン内部のトランザクションしか追跡できないと思い、あるブロックチェーンから別のブロックチェーンへ移動することで匿名性を保てると考えたのだ。まさにそうしたサービスを提供するスタートアップ企業が雨後の竹の子のように生まれた。とはいえ、ブロックチェーン捜査官はそのような抜け道に対しても、すでに対処済みなのかもしれない。
かつて、ビットコインを使う犯罪者は、最終的に取引所を使って法定通貨への換金を試みるのが常識だった。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで暗号とセキュリティを研究するサラ・ミクルジョン准教授は2013年、この理論に基づくブロックチェーン追跡手法の先駆けとなった。
ミクルジョン准教授の手法の詳細は専門的なものだが、簡単に言えば、ブロックチェーン上のすべてのビットコイン・アカウントを特定する数字と文字列のアドレス間における、コインの移動をネットワーク地図として作成するのだ。互いに頻繁にコインを送金し合うアドレスの「クラスター」は個人(1人で複数アドレスの使用は珍しいことではない)や、取引所などの組織に結び付けられる。司法当局者は現在、同様の手法により、アドレス間を移動し、最終的に取引所へと流れるコインを追跡している。そして取引所などへ召喚状を発行して、さらに調べを進めるわけだ。
だが暗号通貨の世界は、ビットコイン以外の暗号通貨がほとんどなかった2013年から大きく変わった。現在では2500種類ほどの暗号通貨があり、2019年8月時点で10億ドル規模の暗号通貨は14種類もある。こうした状況は、匿名性の維持を図るユーザーがさらに活発になる機会を提供しているとミクルジョン准教授は話す。ミクルジョン准教授のチームは、あるブロックチェーンの内部だけでなくブロックチェーン全体でユーザーを追跡する方法を調査した新しい研究論文を発表している。
ビットコインの秘匿性がそれほど高くない …