香港の反政府デモについての動画を見ようとユーチューブ・アプリを開くと、5秒間のよくできたアップルの広告動画がまず流れて、「フェイスID(FaceID)を使えば、こんなに素早くスマホのロックを解除できます」と言っていた。出演者がスマホを見ただけでロックが解除され、彼は驚きつつも嬉しい様子で笑顔を見せた。
唐突に香港の映像に切り替わった。そこでは警察官がフェイスIDでスマホのロックを解除させるため、目を閉じているデモ参加者の目を開けさせようとしていた。スマホのロックを解除できれば、警察は一生分とも言える量のデータにすぐさまアクセスできる。スマホは多くが暗号化されており、ロックを破ることは容易ではないが、セレブライト(Cellebrite)のような企業は顧客である政府の要請に応じてスマホをハッキングすることで多大な利益を上げている。しかしながら、アップルとアンドロイドの最新型スマホの多くは、持ち主の顔に反応して内に秘めた宝を解放してしまう。
米国の警察官がむりやり目を開けさせるような行動に出ることはきっとないだろう。しかしスマホを見たり、指紋センサーに指を置いたりしてロックを解除するよう「強制復号(compelled decryption)」を命じることができる。
警察官にそれが許されるか否かは現在、米国の自由権関連の法制度における生々しい問題となっている。「インディアナ州、ペンシルベニア州、ニュージャージー州の最高裁判所では、現在この問題について係争中の訴訟があります」と、カリフォルニア大学バークレー校ロースクールのオリン・カー教授は語る。「今後2~3年のうちに最高裁で審理されると見ています。憲法上の基準はまだ定まっていませんが、そう遠くないうちに定まると思います」。
バックドア、バイオメトリックス、サンバーナーディーノ
米国などの国の政府官僚は何年もの間、いわゆる「闇の中」問題について不平を漏らしてきた。今やスマホやコンピューターは標準設定で保存したデータを暗号化するようになっており、問題はより一般的になっている。そのため当局が犯罪捜査やテロリスト対策のためにデータを取得することが難しくなっている。この議論は数十年も続いており、サンバーナーディーノ銃乱射犯のスマホへのアクセスを巡って2016年にアップルと米国連邦捜査局(FBI)が争った一件は最近の代表的な事例だ。
政府官僚は企業に対して、暗号化の「バックドア」(「特別アクセス」や「責任ある暗号化」など、婉曲的な呼び名はいくつもある)を、スマホなどのデバイスに組み込むよう要請してきた。詳しい仕組みについては大部 …