相手の感情を読み取ろうとするとき、私たちは顔の表情や身振り、相手の置かれた状況など多くの情報を使う。一方、コンピューターは、人間の感情を読み取ろうとするときに顔だけに注目する傾向がある。これは大きな欠点だ。最近発表された重要な研究論文によれば、このことから、多くの「感情認識」企業の主張が間違っている可能性が示されるという。
テクノロジーを使って顔の表情を分析し、感情を推し量る感情認識は、200億ドル規模のビジネスだとも試算されている。マイクロソフトやアップルなどの巨大企業、それにカイロス(Kairos)やアフェクティバ(Affectiva)などこの分野に特化したスタートアップが、こぞって感情認識テクノロジーの開発に取り組んでいる。感情認識テクノロジーは商品を売るために使われるのが一般的だが、求人採用の分野でもにわかに使われ始めているほか、保険金詐欺に手を染めようとしている人を見抜くツールの候補にもなっている。過去には、米国運輸保安庁(TSA)が2003年に職員に対し、表情を「読む」ことでテロリストの可能性がある人物を見つける訓練を始めたことがある。人工知能(AI)で同じことをしようとするプロジェクトが始まるのも想像に難くない(ちなみに、TSAによる訓練プログラムは、科学的根拠が貧弱であるとして広く批判された)。
だが、ここ数年間で、顔の表情が感情を示すという考え方への反発が高まってきている。米国科学的心理学会(旧・米国心理学協会)によって集められた科学者のグループは、感情検出についての1000本以上の論文を2年間かけて調査した。人々が特定の感情を抱いているときに顔をどう動かすか、他者の顔の表情から感情の状態をどう推測するかを調べた研究に着目したのだ。同調査の結論は、顔の表情だけを使って人の感情を正確に見分けるのは非常に難しいというものだった。
人は嬉しいときには確かに笑い、悲しいときには眉間にしわを寄せる。ただ、その相関は弱いのだと、ノースイースタン大学の心理学者であり、論文の共著者であるリサ・フェルドマン・バレット教授は話す。人が嬉しいときや悲しいときにすることは他にもたくさんあるし、笑っていたとしても、苦笑いや皮肉笑いかもしれない。人の行動は文化や状況によって大きく異なるし、表情をどう解釈するかにはコンテキストが大きく関わってくる。たとえば、悪い状況に置かれた人の体の上に、良い表情の顔の写真を置いた実験では、人々はその顔をより暗いものに感じたという。
要するに、私たちが習慣的に感情と結びつけてきた表情はステレオタイプであり、そうしたステレオタイプに基づいたテクノロジーからはあまり良い情 …