人間の脳は、科学の知る限り、最も卓越したコンピューティング装置だ。現代のマイクロプロセッサーのギガヘルツのクロック速度に比べ、人間の脳はわずか数ヘルツというカタツムリのような速度で動作している。
脳の強みは、毎秒10億もの多数の計算を同時に実行できるところだ。従来のコンピュータではまだ解決できていない問題(運転、歩行、会話など)を脳が簡単に解決できるのは、この並列処理のおかげだ。
さらに印象的なのは、脳がポリッジボウル(お粥を入れるボウル)程度の大きさのサイズで、これらすべてを実行するということである。これに比べて、世界で最も強力なスーパーコンピューターは、大きな町よりも大量の電力を消費する。
コンピューター科学者たちが人間の脳のコンピューティング性能をニューラル・ネットワークで複製したいと考える理由はそこにある。
しかしこれは、「言うは易く行うは難し」だ。 通常のチップをニューラル・ネットワークとして稼働するようにプログラミングすることは可能だが、それには莫大なコンピューティング能力と大変なエネルギーを要する。
コンピューター科学者たちは、人工ニューロンを作り、それを脳のようなネットワークで接続できないかと考えている。これが実現すればエネルギー効率が大幅に向上する可能性があるが、脳の効率に近い設計を考え付いた人はこれまで誰もいなかった。
しかし、それも今日からは過去の話になりそうだ。マサチューセッツ工科大学(MIT)のエミリー・トゥーメイが2人の同僚とともに、多くの点で本物の脳のような働きをするナノワイヤー製の超伝導ニューロンを設計したのだ。このデバイスのエネルギー効率は、少なくとも理論的には、脳の効率に匹敵し、これまでのコンピューティング機器よりはるかに効率の高い新世代の超伝導ニューラル・ネットワークを構成できるという。
基本的な知識について少し記しておこう。ニューロンは、神経に沿って移動する電気的スパイクまたは活動電位の形で情報を符号化する。 脳のようなネットワークでは、ニューロンはシナプスと呼ばれるギャップによって互いに …