火星を人類のある種の「プランB」とする考えは、我々の文化意識にしっかりと組み込まれている。人類が火星に入植し、テラフォーミング(地球化)する様を描いたキム・スタンリー・ロビンソンの壮大な火星三部作で想像されていたように、火星に永住する可能性があるなら我々は火星の表面を大幅に温める必要がでてくるだろう。
それはとてつもない難題になるだろう。火星の大気はほとんど二酸化炭素だが、生命にとって極めて重要な成分である液体の水を維持するには濃度が薄すぎるし、温度が低すぎる。加えて、火星表面は危険なレベルの紫外線にもさらされている。
米国航空宇宙局(NASA)は既に、火星全体を温めることは非現実的であると結論を出している。そのために必要なテクノロジー(たとえば、ロビンソンの小説『グリーン・マーズ』にあったスペース・ミラーのようなもの)がいまだに存在せず、大気に十分な厚みを持たせられるだけの量の二酸化炭素が火星表面に存在しないからである。
しかし、ネイチャー・アストロノミー(Nature Astronomy)に掲載された最新の論文では、火星の氷冠の特定の場所にシリカエアロゲル(ゲルから合成された多孔質の超軽量固体)を使用することで、はる …