この記事の執筆時点で、地球周回軌道の飛行経験者は558人。そのうち約1割が、その経験に基づいて書籍を執筆している。もっとも、そのほとんどはあまり面白い本ではない。畏敬の念を抱き、恐怖心を克服し、夢を叶えた、その素晴らしい偉業をもってしても、宇宙旅行の安全チェックリストのような型にはまった文章の退屈さを埋め合わすことはできない。だが、宇宙へ行き安全に帰還するということはどういうことなのかを、これ以上ないほどの臨場感で表現した優れた書籍もある。
- 米航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士
マイケル・コリンズ -
- アポロ11号の宇宙飛行士でただ一人、月面に着陸せず、月の周りを飛行することについて
ジェミニ10号、アポロ11号
- アポロ11号の宇宙飛行士でただ一人、月面に着陸せず、月の周りを飛行することについて
「人数を数えるなら、月の向こう側には30億人プラス2人、こちら側には1人プラス神のみぞ知る存在の人数。私はそれを強く感じます。恐怖や孤独としてではなく、覚醒、期待、満足、自信、ほとんど歓喜に近いものとして。素晴らしい気分です。窓の外に見えるのはたくさんの星。それだけです。月のある場所には真っ暗な虚空のみ。月の存在を伝えるのは星の不在だけです。」
——『Carrying the Fire(炎を運ぶ)』 より
- 旧ソ連の宇宙飛行士
アレクセイ・レオーノフ -
- 先に月面着陸を達成した米国のライバルたちを見つめつつ
ボスホート2号、ソユーズ19号
- 先に月面着陸を達成した米国のライバルたちを見つめつつ
「私は軍の中心部にいましたが、ライバルの超大国の偉業を見つめていたその場でさえ、拍手喝采に包まれました。この祝賀ムードはすぐに、専門的な議論に取って代わられました。私たち宇宙飛行士は、月面ではとても簡単に歩行とジャンプができるように見えることについて議論を始めました。自分たちが月面に行ったときに、私たちはその点を考慮に入れなければならないということで合意しました。」
——『Two Sides of the Moon(月の二つの面)』 (デイヴィッド・スコット、クリスティーン・トゥーミーとの共著)より
- アポロ13号の宇宙飛行士
ジム・ラヴェル -
- 故障した宇宙船について
ジェミニ12号、アポロ8号、アポロ13号
- 故障した宇宙船について
「巨大な銀の円柱が非常に明るい太陽光をさっと受けたかのようでした。さらに数度回転して4番パネルがあった場所、あるいは、あるべき場所が見えました。そこには、サービスモジュールの端から端まで広がった亀裂、むき出しの大きくぽっかりと開いた傷口がありました。(中略)ドアは全部吹き飛ばされ、船体から完全に引き裂かれ、丸ごと消え去っていました。後に残った亀裂部分では、マイラー断熱材の断片がスパークし、引き裂かれたケーブルがもつれて波打ち、ゴム製ライナーがうねっていました。」
——『アポロ13(原題:Lost Moon: The Perilous Voyage of Apollo 13)』(ジェフリー・クルーガーとの共著)より
- ウォルター・カニンガム
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- 軌道への到達について
アポロ7号
- 軌道への到達について
「最初の活動が落ち着いた後、私がまず宇宙に感じたのは、いるべき場所に来たというものでした。私はその考えを抱いて5年間生きてきました。新たな当事者たちがぞろぞろと舞台に上がり、その場を支配し、一歩ずつ進歩を遂げ、カーテンコールを受け、それから新たな注目を避けるように走り去り、自信と名声を高めるのを見守ってきました。数カ月後には、新たな当事者たちが、同じように突然の注目を浴び、記者会見と質問を受けます。そして今回、舞台に上がるのは私たちの番でした。(中略)すべては 何事もなくとてもスムーズに進み、離陸前のあらゆる懸念が馬鹿げたものに思えるくらいでした。」
——『The All-American Boys(全米少年)』より
- バズ・オルドリン
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- 人類で2番目に月面に着陸して地球へ帰還したことについて
ジェミニ12号、アポロ11号
- 人類で2番目に月面に着陸して地球へ帰還したことについて
「私はかつてライフ(Life)誌で、『宇宙一の科学者』と呼ばれたことがありました。(中略)私はランデブーの操作を、ほぼ頭の中で考え出すことができました。しかし、私の月面歩行は、達成感や大胆な偉業、大きな称賛の欠けたものであり、その後の10年間は個人的な苦悩に満ちた年月でした。」
——『Magnificent Desolation(壮大な荒廃)』 (ケン・エイブラハムとの共著)より
- アラン・ビーン
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- 無重力状態での自分の持ち物の追跡について
アポロ12号、スカイラブ3号
- 無重力状態での自分の持ち物の追跡について
「今日、5日目のメニューカードを紛失し、朝食時にそれをごまかす必要がありました。足拘束具に使うプラスドライバーを探すため工具箱の中をのぞいているとき、とうとうなくしたメニューカードを見つけました。私の本『幼年期の終り』(アーサー・C・クラークのSF小説)が浮遊して通り過ぎました。 十分待てば、なくしたものは浮遊していつか目の前に現れるのです。」
——『Homesteading Space: The Skylab Story(宇宙への入植:スカイラブ物語)』(デヴィッド・ヒット、オーウェン・ギャリオット、ジョー・カーウィンとの共著)より
- マーガレット・レア・セッドン
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- 宇宙でのぶっつけ本番の修理について
スペースシャトル・ディスカバリー、スペースシャトル・コロンビア(2回)
- 宇宙でのぶっつけ本番の修理について
「間もなく、地上の管制室では宇宙飛行の歴史の中で最も奇妙な計画が考え出されました。(中略)ランデブーを実行して、衛星のアームの届く距離まで私たち宇宙飛行士を連れていき、それから、アームに付いている奇妙な物を使ってスイッチを引っ張ってONの位置に動かすのです。(中略)この複雑な装置全体は、グレーのダクトテープ(強力な粘着テープの一種)でぐるぐる巻きにされてつながっていました。(中略)管制室の誰かが私は裁縫が上手だと言い、そこでサリー・ライド(米国初の女性宇宙飛行士)は、私が優秀な外科医であると皆に言いました。そのことを彼女に感謝したいと思います。」
- ジェリー・リネンジャー
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- 命を落としそうになった火災について
スペースシャトル・ディスカバリー、スペースシャトル・アトランティス(2回)、ミール
- 命を落としそうになった火災について
「宇宙では消火器はスラスター(推進システム)のように働くので、私はコルズン(ロシアの宇宙飛行士)を安定させるために彼の腰周りを押さえました。さらに、私が定期的に彼の体を揺らすと、彼も揺らし返しました。お互いにまだ意識があることを伝える合図でした。炎の高さは私の顔の前で1.5メートルほどあり、顔の前で指を数えることができないほど煙が立ち込めていて、コルズンの顔は見えませんでした。(中略)手に負えないほど14分間燃え盛った後、火は燃え尽きて消えました。(中略)見通しはまだ暗いように思えました。濃い煙がそこら中に立ち込め、呼吸可能な空気ではありませんでした。私たちが使っていた酸素呼吸器の使用時間には限りがあり、最大で1〜2時間であることに全員が気が付きました。私たちはすぐに、慌ただしく活動していた状態から意図的に無活動状態に切り替えました。」
- スコット・パラジンスキー
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- 国際宇宙ステーションの修理について
スペースシャトル・アトランティス(2回)、スペースシャトル・ディスカバリー(2回)、スペースシャトル・エンデバー
- 国際宇宙ステーションの修理について
「体にぴったり合った寝袋なので寝返りを打つことはできませんが、できたならそうしたでしょう。多くの優秀なNASAのロケット科学者たちが明日、宇宙ステーションを縫合するためにホイールと私を船外へ送り出します。(中略)まるでテレビ映画のようなシナリオです。冷や汗をかきながら、新たなタスクの理解に努めます。この1日が私のこれまでのキャリアの集大成なのです。これまでの訓練や飛行経験といったすべての集大成です。(中略)こんな奇想天外なシナリオは想定していなかったので、この修理については、従来の意味での訓練は受けていません。」
——『The Sky Below(空を足元に見て)』(スージー・フローリーとの共著)より
- ブライアン・オレアリー
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- 宇宙飛行士プログラムを中止することについて
アポロ(飛行経験なし)
- 宇宙飛行士プログラムを中止することについて
「突然、宇宙飛行士プログラムをすぐにやめたいと思いました。その決断はグリズリー・パーク(Grizzly Park)から見上げる空と同じくらい澄み切っていました。私は一切の関わりを持ちたくないと思うようになり、環境を変えることでそのプロセスを進めました。メリットとデメリットを、何度も繰り返し考えました。私はどうして、ヒューストンの平坦な土地、よどんだ空気、想像力に欠けた非科学的な環境に、10年間も居続けられたのでしょう。」
——『The Making of an Ex-Astronaut(元宇宙飛行士の作り方)』より