フェイスブックは、中国事業の成功を目指して、新しい検閲ツールを開発したようだ。しかし、検閲ツールは、米国で問題になっているねつ造ニュースの対応には使えない。
多くのインターネット大手が以前にも中国に進出しようとした。しかし、中国進出には通常、ルールの緩和が要求される。もっとも顕著な例が、2006年の出来事だ。米議会の議員は、ヤフーやグーグル、マイクロソフトが、コンテンツの検閲に関して、中国政府と「受け付け難い協力関係」にあるとして非難した。
だが、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、競合他社が失敗した場所で成功を目指している事実を隠してこなかった。ニューヨーク・タイムズ紙によると、フェイスブックは今回、特定のコンテンツをニュースフィードで非表示にできるシステムを開発した。事情に詳しい人物によれば、検閲ソフトは、フェイスブックの「中国進出」のために、特別に開発されたとニューヨーク・タイムズ紙に語っている。
報道によれば、検閲ツールは、フェイスブック自身が直接操作するのではない。コンテンツが「適切に」表示されるよう、フェイスブックに投稿されたコンテンツを第三者が監視し、「不適切な」投稿を非表示にするのだ。このツールの開発を巡って従業員の一部が退社したといわれており、フェイスブック社内にあつれきが生じているのは明らかだ。
懸念すべきニュースは、従業員の件だけはないかもしれない。この種のツールの存在は、米国のソーシャル・ネットワークが対処を求められている最中のねつ造ニュース問題と比較され、批判を受けるのは間違いない。フェイスブックに中国語のコンテンツを検閲する準備があるなら、なぜ誤報もブロックしないのだろうか?
問題は、もちろん決断の重大さにある。ある政府にとって不都合かどうかより、何が真実で、何が嘘なのか見極めるのはずっと難しい。政治家による発言の事実確認をミッションに掲げる米国の非営利組織FactCheck.orgのユージン・キーリー・ディレクターは、ブルームバーグに対して「必ずしもガセとはいえない、お粗末な情報は多くあるのです。皆さんが思うほど明確では決してありません」と説明した。
マーク・ザッカーバーグCEOも、問題の困難さを十分に承知している。実際、ザッカーバーグCEOは、フェイスブック社内に対して「真実の仲裁者になることに極めて慎重」であってほしいと社外に見える形で発言している。
この方針は恐らく、現在までにねつ造ニュース問題に関するフェイスブックの唯一の解決策が、虚偽の情報を広めるサイトに広告の提供を中止することだった理由だろう。ザッカーバーグCEOは、これからも多くのことをするつもりだと約束した。しかし、とりわけザッカーバーグCEOが、問題は「技術的にも哲学的にも複雑」だと釘を刺していたことを踏まえると、ねつ造ニュースへの対策はすぐには実行されなさそうだ。
中国向けに開発された検閲ツールは、フェイスブックの運営に外国政府の意向を反映させることなく、責任の重みだけをうまくかわす方法だ。ザッカーバーグCEOは「コンテンツの検閲によってフェイスブック自身は非倫理的な行動はしてはいない」と自分にいい聞かせられる。それで十分かもしれない。しかし、ザッカーバーグCEOは、主要な情報ツールの運営責任者であり、10億人以上のユーザーが、フェイスブックを主要な情報獲得手段としてニュースや情報を得ている。たとえ中国進出に必要なことだとしても、第三者にコンテンツの制御権を渡すのはあり得ない話だ。
(関連記事:The New York Times, Bloomberg, “フェイスブックで流通した虚偽ニュースはトランプ当選に貢献したか?,” “フェイスブック、保守派への配慮でねつ造ニュースの選別を自粛?,” “マーク・ザッカーバーグはなぜ中国にこびを売るのか?”)