KADOKAWA Technology Review
×
自動化が生む新たな貧困
「ゴーストワーク」は
他人事ではない
Courtesy of Houghton Mifflin Harcourt
倫理/政策 無料会員限定
The AI gig economy is coming for you

自動化が生む新たな貧困
「ゴーストワーク」は
他人事ではない

人工知能(AI)業界などが提供する自動サービスの多くは、劣悪な労働条件の下で働く「見えざる労働者」が支えている。人類学者のメアリー・グレイにゴーストワークの問題点と解決策を聞いた。 by Karen Hao2019.06.05

ガーディアン(Guardian )紙は5月29日、グーグル・アシスタント開発の実態をレポートした記事を掲載した。26の言語を理解するグーグル・アシスタントの「魔法」のような能力の背後には、下請け業者として働き、グーグル・アシスタントが機能するように膨大な量の学習データをひたすらラベル付けする大勢のマルチリンガルたちのチームが存在する。彼らは低賃金で働き、日常的にサービス残業を強いられている。労働条件に対する要求は、繰り返し退けられてきた。

これは、人工知能(AI)業界の運営実態を暴き始めた数十の話の中の1つに過ぎない。人間の労働者は、AIを機能させるためにデータにラベル付けをするだけではない。時には人間の労働者がAIの役割を果たす。フェイスブックのコンテンツを監視するAIの背後には、何千人ものコンテンツモデレーターが存在する。アマゾン・アレクサの背後には、文字起こしのグローバルチームが存在する。そしてグーグル・デュープレックス(Duplex)の背後では、人間を真似るAIを模倣する人間が電話をかけていることもある。AIを機能させるのは魔法の杖ではない。自分たちの作業を自動化できるまで、徹底的にアルゴリズムを訓練する見えざる労働者の力で動いている。

書籍『Ghost Work: How to Stop Silicon Valley from Building a New Global Underclass(ゴーストワーク:シリコンバレーが全世界に新たな貧困層を作り出すのを止める方法)』を5月に出版したばかりの人類学者のメアリー・グレイとコンピューター科学者のシッダールタ・スリは、今後誰もがその見えざる労働者になる可能性があると訴える。

人々はなぜゴーストワークをしようとするのか? 社会から見えにくい労働形態がどのように劣悪な労働環境を導くのか? どうすればこの新たな労働形態をより持続可能なものにできるのか? メアリー・グレイに話を聞いた。

——「ゴーストワーク」の定義を教えてください。

ゴーストワークとは、部分的にでもアプリケーション・プログラミング・インターフェイス(API)とインターネットを利用し、調達、スケジュール、管理、出荷、および開発ができるような仕事のことです。少しAIを利用することもあります。人間が関与しておらず、ソフトウェアが魔法のように稼働しているだけとされる仕事は、ほぼ間違いなくゴーストワークです。

——ということは、最終製品またはサービスがどのように販売されているかに左右されるということですか。

そうです。仕事や成果そのものは、本質的には良いものでも悪いものでもありません。それを良くも悪くもするのは、具体的に言えば労働条件で …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. Why the next energy race is for underground hydrogen 水素は「掘る」時代に? 地下水素は地球を救うか
  2. How a top Chinese AI model overcame US sanctions 米制裁で磨かれた中国AI「DeepSeek-R1」、逆説の革新
  3. This quantum computer built on server racks paves the way to bigger machines ザナドゥ、12量子ビットのサーバーラック型光量子コンピューター
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る