KADOKAWA Technology Review
×
【3/14東京開催】若手研究者のキャリアを語り合う無料イベント 参加者募集中
Is DeepMind’s Health-Care App a Solution, or a Problem?

グーグルの人工知能子会社、160万人分の医療記録を正式取得

機械学習は、医療関係者が病気の初期症状に注意を向けさせるが、共有するデータをの量が多過ぎると論議する批評家もいる。 by Jamie Condliffe2016.11.23

グーグルの人工知能子会社であるディープマインドは、機械学習によって医療従事者に助言することで、医療を合理化したいと考えている。しかし、誰も大量のデータをグーグルと共有したいわけではない。

このプロジェクトでは、ロンドンの病院に勤務する医療従事者にディープマインド製アプリ「ストリームズ(STREAMS)」から患者の状態を警告する。ストリームズは、看護師や医師が、患者の病歴や試験結果に簡単にアクセスできる。さらに人工知能(AI)が患者の血液検査データのパターンを追跡し、腎損傷の初期症状を専門医に通知するように学習する。

BBCによると、ディープマインドは英国の国家健康サービス(NHS)と5年契約を交わし、ストリームズを提供できるようにした。その代り、ディープマインドは、ロイヤルフリーNHS財団が所有するロンドンの3病院に登録されている160万人以上の患者記録にアクセスできるようになる。

DeepMind wants to make better use of medical records.
ディープマインドは、診療記録を活用したがっている

実際には、既存の契約のうち今年前半に問題になった内容(ニュー・サイエンティスト誌が調査したものの一部)を全面的に見直したのが新契約だ。情報公開法に基づく開示要求により、ロイヤルフリー医療財団は、既にディープマインドとデータ共有契約を結んでいることがわかった。だが、この提携では、アプリを英国政府の監督機関に登録していない。新契約によって、その過失が修正される。

だが、契約にはいまでも懸念が残っている。フィナンシャル・タイムズ紙の記事によれば、ケンブリッジ大学出身でテクノロジー分野が専門のジュリア・パウルズ弁護士は、ディープマインドが「NHSへの迅速かつ広範囲なアクセス権を得ています。説得力はありますが、効率の向上やイノベーションが保証されているわけではありません」という。さらに、取得したデータをディープマインドが何に使っているのかは不明だという。

一方ディープマインドは「臨床医が、何枚もの書類をデスクトップベースの書類システムで処理する時間が不要になる」ことで、ストリームズは病院の健康管理を合理化できる、と主張している。最終的にディープマインドは、ストリームズが完全に導入されれば「事務処理に費やされる年間50万時間以上、直接患者の治療に費やせます」という。また、患者のデータは暗号化され、ディープマインドのみが使用でき、親会社のグーグルにはアクセスさせないとしている。

健康管理関連のプロジェクトは、ディープマインドだけの事業ではない。機械学習の手法で大学病院の放射線治療を合理化しようとしているほか、ムアフィールズ眼科病院は視覚変性の初期症状を診察できるようにしている。

ディープマインドには、もっと大きな目標もあるだろう。こうしたプロジェクトを実施することで、他の方法では決して手に入らない、大量のデータが手に入るのがディープマインドの真の目的だという批判もある。だが、ディープマインドの目標が、単に健康管理サービスをできるだけ効率化することだとすれば、大量のデータを提供する以外に、病院側に協力できることはない。上手く行けば、既存の医療機関は「被害を与えない」「悪事をなさない」というグーグルの信念と共存できるだろう。

人気の記事ランキング
  1. AI crawler wars threaten to make the web more closed for everyone 失われるWebの多様性——AIクローラー戦争が始まった
  2. Promotion Innovators Under 35 Japan × CROSS U 好評につき第2弾!研究者のキャリアを考える無料イベント【3/14】
  3. From COBOL to chaos: Elon Musk, DOGE, and the Evil Housekeeper Problem 米「DOGE暴走」、政府システムの脆弱性浮き彫りに
  4. What a major battery fire means for the future of energy storage 米大規模バッテリー火災、高まる安全性への懸念
  5. A new Microsoft chip could lead to more stable quantum computers マイクロソフト、初の「トポロジカル量子チップ」 安定性に強み
タグ
クレジット Photograph by Carl Court | Getty
ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
▼Promotion
U35イノベーターと考える 研究者のキャリア戦略 vol.2
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る