昨年5月、米国海洋大気庁(NOAA:National Oceanic and Atmospheric Administration)の科学者による驚くべき発見がネイチャー誌に掲載されたことで、国際的な「科学謎解き合戦」が始まった。世界のどこかの複数の工場で、再びCFC-11(トリクロロフルオロメタン、フロン11)の生産が始まったらしいと書かれていたのだ。
強力な温室効果ガスでもあるオゾン層破壊物質は、地球のオゾン層を修復するための国際条約、モントリオール議定書で2010年に廃止されている。
既存の冷媒や断熱材の製造に使用されるオゾン層破壊物質の残存物が、大気中に何十年もの間漏出を続けることは想定されていた。だが、2012年を境に、それまで安定していた減少率が突然半減し、年間約1万3000トンの増加を始めたのだ。
5月22日付のネイチャー誌に掲載された新しい論文では、30人以上の主要な国際的研究機関の研究者が、この謎を解く説得力のある新しい証拠を示している。主な容疑者は中国本土東部の工場である。2014年以降、主に中国東北部の山東省と河北省から、CFC-11の年間排出量が約7000トン増加している。つまり、NOAAの論文で示された年間約1万3000トンという排出量の半分以上が、この地域からのものだ。
排出源と見られる地域に近い大気観測所による検出値と、気象やガスの移動パターンのシミュレーションに基づくこの結果は、昨年の論文の時点で疑われていた中国の工場に対する疑惑を確実にするとともに、その科学的な裏付けを提供するものだ。
カリフォルニア大学サンディエゴ校のスクリップス海洋研究所(Scripps Institution of Oceanography)の地球化学者で、論文の共著者でもあるレイ・ワイス博士は、CFC-11の排出増加について「かなり決定的な真相」を示している述べている。しかし同時に、科学的証拠があるからと言って、指摘された地域の不正な工場による禁止された化学製品の生産と使用が、工場の独断なのか、あるいは中国政府の暗黙の了解があった …