アポロ計画から50年
月軌道ランデブーを支えた
技術者は今もNASAにいた
月面から離陸した探査機を月周回軌道上の宇宙船にドッキングさせることは、宇宙飛行士の地球帰還の成否を握る極めて重要なプロセスだった。アポロ計画に携わり、50年経ったいまもNASAで働くある技術者の物語。 by Erin Winick2019.05.27
アポロ11号ミッションが50周年を迎える今年7月までの数カ月にわたり、MITテクノロジーレビューでは人類の月面着陸に貢献した人々のストーリーを掲載している(前回は「パンチカードで人類初の月面着陸を支えた最後の数学者の物語」)。 今回の主役は、シーラ・ティボーだ。
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アポロ計画に携わった人々の多くは、その後、医学や航空などの宇宙以外の分野に離れていった。しかし、シーラ・ティボーは違う。アポロ計画のとりこになった彼女は、50年経ついまも同じ場所、バージニア州ハンプトンのNASAラングレー研究センターに勤務している。最近の映画『ドリーム(原題はHidden Figures)』に取り上げられて広く知られるようになった、アポロの軌跡計算に重要な貢献を果たしたキャサリン・ジョンソンも、この町に住んでいた。
ティボーが初めてNASAを訪れたのは、ひと夏の仕事が欲しかったからだ。当時ティボーはバージニア州のウィリアム・メアリー大学で物理学の学士号を取ったばかりで、とりあえず夏の数カ月間の仕事を得たいと考えていた。当時はちょうどアポロ計画が本格化していた時期で、彼女が貢献できる機会がごろごろ転がっていた。
ティボーの見つけた居場所は、ランデブー・ドッキング・シミュレーター(現在は史跡となっている)のテストの作成と実行業務だった。ジェミニ計画とアポロ計画に参加したすべての宇宙飛行士たちは、月軌道ランデブー(LOR)という難しい仕事をこの大きな機械を使って習得した。
LORとは、月面に着陸した宇宙船を、宇宙飛行士が地球に帰還するのに使う月周回軌道上の宇宙船とドッキングさせるプロセスに付けられた名前だ。しかし、ドッキングがうまくいく保証はない。ドッキングの失敗は計画全体の失敗を意味する。「とてもリスクが高いため、当初は多くの物議を醸していました。ランデブーとドッキングに失敗すれば、こちらからは何もできないまま、2人の宇宙飛行士を失ってしまうことになります。助けに行くすべがまったくないのですから」とティボーはいう。
そのため、宇宙飛行士たちは、ティボーが働いていたオフィス近くの天井から吊り下げられたランデブー・ドッキング・シミュレーターで、6自由度(DoF:Degree-of-Freedom)におけるあらゆる状況を想定した訓練を積む必要があった。訓練の中でも重要なのは、テレビモニターを見ながら、物体を整列させる方法を学ぶことだったが、当時のテレビは品質が悪く、画面には多くの歪みが発生した。
ティボーの役割は、その画面の歪みの大きさを把握し、宇宙飛行士たちが最初はシミュレーターの中で、その後には実際に物体を整列できるようにすることだった。「宇宙飛行士たちの視覚的な手掛かりをより鮮明にすることで、彼らが正確で安全にミッションを遂行できるようにするのが私の仕事でした」とティボーは語る。
アポロ計画が終わった後、ティボーは今でも宇宙飛行士たちの安全を守っている。「あれから50年経ち、宇宙飛行士たちを放射線から守るための防護服の仕事に携わっています」とティボーは話す。
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アポロ計画に携わった他の人々、ミッションの計算を再確認するのを手伝った数学者や宇宙飛行士が月の残した「足跡」の影の立役者の記事はこちらから。
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- エリン・ウィニック [Erin Winick]米国版 准編集者
- MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。機械工学のバックグラウンドがあり、宇宙探査を実現するテクノロジー、特に宇宙基盤の製造技術に関心があります。宇宙への新しい入り口となる米国版ニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」も発行しています。以前はMITテクノロジーレビューで「仕事の未来(The Future of Work)」を担当する准編集者でした。それ以前はフリーランスのサイエンス・ライターとして働き、3Dプリント企業であるSci Chicを起業しました。英エコノミスト誌でのインターン経験もあります。