苦境のアルゼンチン経済
「救世主」暗号通貨は
タンス預金を引き出せるか?
通貨の暴落が止まらず、経済危機に陥っているアルゼンチンで、暗号通貨を普及させようとする企業の動きが活発になっている。米ドルでの「タンス預金」の代わりに「ステーブルコイン(安定通貨)」を売り込み、ペソ暴落の影響を避けられるという。 by Kristin Majcher2019.05.30
アルゼンチンのロックバンド「ソウダ・ステレオ(Soda Stereo)」の1988年のヒット曲『La Ciudad de la Furia(怒りの都)』は、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスのニックネームとなった。それは現在も変わらない。ブエノスアイレスの「怒り」は、安定しない日常生活の質に顕著に表れている。ストライキやデモで道路が封鎖されたり、暑い夏の午後に停電が起きたりすることは珍しくない。食品や商品の価格は地域や場所によってばらつきがあり、大幅に異なることもある。
もっとも蔓延している問題は、弱体化した経済と暴落する通貨だ。この問題をデジタル通貨で解決できないか?それは無理だろうと思うかもしれない。しかし、この数カ月、ブエノスアイレスの地下鉄のトンネルの壁に並ぶパック旅行や靴、出前・宅配アプリの宣伝ポスターに混ざって、一連の新しいカラフルな広告が目につくようになった。その広告ポスターの1つには飛んでいる豚がデザインされ、「25万人のアルゼンチン人がすでに当社サービスでビットコインを購入」という快活なブロック体の文字が踊る。ラテンアメリカでの暗号通貨の一般普及の到来に賭けるスタートアップ企業の1社、リピオ(Ripio)の広告だ。アルゼンチン特有の経済状況を見て、暗号通貨が足場を築くのに最適な場所かもしれないと多くの人が考えている。
2001年にアルゼンチン政府がデフォルト(債務不履行)に陥った後、銀行に対する長引く不信感が残った。さらに、ここ数カ月、アルゼンチン・ペソが対米ドルで過去最安値を更新し続ける新たな経済危機が生じている。このような価格変動から個人貯蓄を守るために、アルゼンチンでは通貨ペソを米ドルに換金して自宅で保管するのが一般的になっている。
理論上は、個人貯蓄を守りたいアルゼンチン人にとって、安定したデジタル通貨の購入は100ドル札のタンス預金よりも便利な方法となるはずだ。そこに、中央集権型機関ではなく非中央集権型コンピューター・ネットワークによる管理が前提の暗号通貨が根付く可能性がある。ブロックチェーン・プロジェクトを受け入れるアルゼンチン政府の姿勢は、ブエノスアイレスを開発者の拠点にするのに役立った。しかし、一般消費者に暗号通貨の使用を促すには、いたるところで使え馴染み深い米ドルを上回る利点を明らかにし、使いやすく信頼できるシステムを提供する必要がある。
リピオは、暗号通貨の購入、販売、取引、投資、および支払いに簡単に使えるツールの開発を目指している。多くの一般市民にとっては初めて目にする社名だろうが、社名変更前のビットパゴス(BitPagos)の時代から考えると、すでにリピオは創業6年のブロックチェーンのベテラン企業だ。2017年にビットパゴスはターゲットを事業者から消費者に移し、リピオという新しい社名でブランドを再構築した。現在、アルゼンチン、ブラジル、およびメキシコに30万人のユーザーがいる(ユーザーの85%はアルゼンチン人だ)。
リピオはユーザーに、暗号通貨取引所およびデジタル資産保管用のソフトウェア「ウォレット」を提供している。また、 …
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