この先何年も、有識者はドナルド・トランプ大統領が選出された原動力の正体を議論するだろう。現時点で優勢なのは、文化的な背景による説明だ。何人もの研究者やジャーナリストが、トランプの訴求力の最も深い源泉として、特に「人種的な不満」と外国人嫌いが果たした役割をあげる。もちろん、この種の説明は無視できない。
だが、何十年にも渡って、米国製造業の雇用者が減少する一方、近年復調してきた製造業の特徴である、高度に自動化された性質も、トランプ政権を生んだ大きな要因だ。製造業の衰退は、トランプを大統領にした労働者階級の怒りの紛れもない源だ。しかし、製造業の自動化は、トランプ政権が製造業の雇用を取り戻し「アメリカを再び偉大に」できない主な理由なのだ。
開票結果の地図で共和党を示す赤に染まった「赤さび地帯(Rust Belt:米国中西部にある、かつての工業地帯)」を見れば、トランプ当選をもたらした感情的な震源がどこにあるのかは明白だ。また、地図は同様に、米国製造業の雇用と生産性の実態も示している。ここ数十年間で労働集約型の生産手法は崩壊し、この十年で達成された極めて高い生産性を実現する最先端の製造工程の普及で、何百万もの白人労働者は、見捨てられ、いない者扱いされ、怒っているのだ。
このことは、1980年代から30年間に渡って、雇用が大幅に減少している経済統計の急激な傾向で一目瞭然だ。米国の製造業の雇用の3分の1以上が整理され、製造業の雇用者数は1890万人から1220万人に急落した。
失業の多くは米国中西部等の赤さび地帯の州に集中していた。製造業の雇用が消滅して地域社会全体が打撃を受け、製造業中心の大都市圏で、広範囲のブルーカラー労働者が職を失ったのは明らかだ。2000年以降だけでも、数百万人もの労働者が、製造業の時給25ドル(健康保険と退職年金付き)の職を追われた。再就職しようにも、たいていの場合はサービス業の時給12ドル(福利厚生なし)の職しか選べない。
製造業の雇用が失われて地域に何が起きたのかは、今秋、マサチューセッツ工科大学(MIT)のデイビット・オーター教授(経済学)らが発表した、安価な中国製輸入製品の影響に関する研究で明らかになった。影響のひとつが、製造業の雇用が減少した下院選挙区で起きた、政治の二極化だ。製造業の雇用を失った地域社会で政治が二極化し、その結果、11月8日の選挙でドナルド・トランプが大統領に選ばれたのだ。
リーマンショックから持ち直して以降の自動車ブームと、最先端の製造工程を実現した米国産業の …
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