ベゾスの招待制イベントにMITの「AIチップ」開発者が呼ばれた理由
アマゾン創業者のジェフ・ベゾスが主催する招待制カンファレンス「MARS」で紹介されたエッジ向けAIチップは、ロボットやドローンといった他の派手なプレゼンに比べると地味なものだった。だが、電力効率に優れた新しい半導体は、人工知能の未来において重要な存在となる。 by Will Knight2019.05.09
最近、米カリフォルニア州パームスプリングスのまばゆい日差しの中、小さなステージに立ったヴィヴィアン・ジー准教授は、おそらくこれまでのキャリアでもっとも緊張したプレゼンテーションをした。
ジー准教授はプレゼンの内容を知り尽くしていた。マサチューセッツ工科大学(MIT)の自分の研究室で開発しているチップについて話すことになっていたからだ。ほとんどの人工知能(AI)の計算は巨大データセンターで実行されるが、ジー准教授のチップを使えば、データセンター外で使われている使用可能電力に制約のある多数のデバイスで高性能のAIを利用できる。しかしながら、プレゼンをする場所と聴衆が、ジー准教授を緊張させた。
プレゼン会場は、豪華なリゾート地でロボットが散策(または飛行)しながら有名な科学者やSF作家たちと交流する、厳選されたエリートたちが集う招待制カンファレンス「MARS」(Machine learning:機械学習、Automation:オートメーション、Robotics:ロボット、Space:宇宙分野のイノベーションがテーマの会議)だった。技術的な講演をするために招かれた研究者はわずか数人。聴衆に衝撃を与え、かつ啓発するセッションが期待されていた。一方の参加者は世界屈指の研究者、CEO(最高経営責任者)や起業家などおよそ100人。主催者は、会場の最前列に座って聴いていた、ほかならぬアマゾン創業者兼会長のジェフ・ベゾスだった。
「聴衆はかなりの大物揃いだったと言えるでしょう」。ジー准教授は笑いながらそう振り返る。
MARSカンファレンスの他の講演者が紹介したのは、空手チョップを披露するロボットや、静かに羽ばたく不気味な大型昆虫のような無人ドローン。さらには火星植民地の楽観的な青写真まである。それらに比べると、肉眼で見る限り普通の電子機器に搭載されているものと区別がつかないジー准教授のチップは地味に映るかもしれない。だが、このチップは間違いなくMARSで紹介された何よりもはるかに重要なものだ。
新たな能力
ジー准教授の研究室で開発しているような新設計のチップは、MARSで紹介されたドローンやロボットを含めて、AIの今後の進歩に不可欠なものになる可能性がある。これまで、AIソフトウェアは主にグラフィックチップ(GPU:画像処理装置)上で動作していた。だが、新しいハードウェアによってAIアルゴリズムがより強力になり、新たな応用への扉が開かれる可能性がある。新設計のAIチップは、倉庫ロボットを普及させたり、スマホ上に写真並みにリアルな拡張現実(AR)画像を表示できるようにしたりするかもしれない。
ジー准教授のチップは、非常に高い効率性と柔軟性を併せ持つ設計となっている。こうした特徴は、急速に進化している分野にとって欠かせない性質だ。
ジー准教授のマイクロチップは、すでに世間を大騒ぎさせている「深層学習」AIアルゴリズムを最大限に活用するために設計されている。その過程で、マイクロチップが深層学習AIアルゴリズム自体を進化させるかもしれない。「ムーアの法則が減速している中、新しいチップが必要とされています」とジー准教授はいう。ムーアの法則とはインテルの共同創業者であるゴードン・ムーアが考案した経験則であり、チップ上のトランジスター数がおよそ18か月ごとに倍増し、それに合わせてコンピューター性能が向上するというものだ。
ムーアの法則は、工業部品が原子のスケールに達 …
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