カリブを襲う「海藻」の脅威
人気観光地の危機を救えるか
世界的な人気観光地・カリブ海沿岸がいま、海藻の異常繁殖に苦しめられている。サンゴなど生態系への影響も懸念される中、回収した大量の海藻をバイオ燃料の製造や食糧生産に利用しようとする研究も進んでいる。 by Lauren Zanolli2019.05.29
船長が冗談めかして警笛を鳴らし、前方の目標に乗員の注意を促したとき、プエルト・モレロスの瀟洒な沿岸リゾートはまだ視界に入っていた。キツネ色の広大な汚染エリアが、水平線に向かって伸びている。メキシコのカリブ沿岸の名高いセルリアンブルーの海に代わり、私たちは突然、海藻の厚い膜に囲まれた。辺りには硫黄臭が漂う。
こここそが、特別装備のホンダワラ回収船の乗員の目的地だ。船は、新たな海藻回収技術に取り組んでいる5企業の共同体「グルポ・ダカツォ(Grupo Dakatso)」に所属している。この小型の双胴船は船首に特殊なコンベアベルトを備えており、それで海中から大量の海藻を引き上げ、回収用の大型メッシュ袋に取り込む。袋1つには300キログラムが入るが、1、2分で満杯になってしまう。そんな中、エンジンの轟音に負けないように乗員ができることといえば、口笛とハンドシグナルだけだ。
2018年の春以降、メキシコのカリブ海沿岸やこの地域の19か国の沿岸には、かつてないほどのホンダワラ(ヒジキと同じホンダワラ科に属する茶色の海藻)が押し寄せている。まっさらな白いビーチを期待して来た観光客は、ビーチの代わりに、朽ちかけたネバネバの植物の終わりなき山に対面することになる。この茶色い大型海藻が少量でカリブ海沿岸に現れるのは異常ではないが、過去10年間、外洋の藻は大きさや現れる頻度を増している。昨年の事態は、この地域では史上最悪と考えられている。そして今、生態系の危機を食い止めるだけでなく、それを活用しようという取り組みが多数実施されている。
ホンダワラ(サルガッソー藻)は通常、東大西洋の同名海域(サルガッソー海)からカリブ海に漂着する。しかし研究者らは、2018年の流入は別の供給源から来たと考えている。それはブラジルと西アフリカの間の赤道海域だ。そこではアマゾン川やコンゴの川から流出した農薬や肥料が藻の栄養となっている。プエルト・モレロスにあるメキシコ国立自治大学の生態学者であるブリジッタ・ファン・タッセンブルック博士は、この藻が気候変動で巨大化したと指摘する。海水温の上昇が海藻の急増に一役買い、アマゾンの熱帯雨林の伐採も藻の成長を促す。伐採は農薬や肥料の流出を増やすだけでなく、それ自体が気候変動に大きな影響を与えるのだ。
「私たち人間が、ホンダワラ問題の責めを負うべきです」。地元のホテルや政府から海藻除去の契約を請け負っているグルポ・ダカツォの最高責任者であるダゴベルト・ルイス・ラビンはそう語る。「私たちが手をこまねいていたら、さらにひどい状況が将来の世代にもたらされるでしょう。ホンダワラはこれからもやって来ます」。
通常の環境では、ホンダワラは正常どころか健全とさえ言える海の一員だ。しかし大量に存在すると、沿岸の生態系に多くの被害をもたらす。マット状に広がると、サンゴ礁が必要とする日光を遮り、サンゴの病気や死を引き起こす。海藻が死んで腐敗すると、バクテリアが海中の酸素を …
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