大統領選でドナルド・トランプが勝利したことにシリコンバレーが困惑するのは理解できる。しかし、シリコンバレーには、カリフォルニア州を米国から独立させたい人が現れた。そんな狭量で思慮にかける反応は、起業家やベンチャーキャピタリストのコミュニティが取るべき態度であるはずがない。
ブルームバーグとニューヨーク・タイムズ紙は、ドナルド・トランプの大統領当選以降「シリコンバレーは揺れている」と伝えた。確かに、トランプを勝利に導いた世論と、国家の枠組みにとらわれないグローバルな知性、国外製造、オフショア金融を支持しがちなテック産業の見解は相容れない。どれもトランプの世界観の正反対だ。また、ポピュリスト候補への投票は、明らかに、海外に財産を蓄え、新しい仕事を作り出さない、西海岸(テック産業)や東海岸(金融)のエリートへの反撃だ。
オバマ政権では、テック産業と政権に緊迫感はなかったが、次期政権では避けがたい。
確実に、トランプはカリフォルニア州太平洋岸の北西部を中心に所在するテック企業を苦しめるだろう。恐らく、アマゾンは独占禁止法違反で訴えられ、マイクロソフトやグーグル等の企業は法人税の支払いが求められ、タイムワーナーをAT&Tが買収する計画は停止させられるだろう。移民や貿易、さらに、より厳しい事態が予想されるのは、暗号やプライバシー等、テクノロジー関連の課題の処理にあたって、テック業界を激震させるはずだ。
一方、シリコンバレーのエリート層では、ある話が広まっている。ハイパーループの共同設立者シャービン・ピシェ―バーなどが、カリフォルニア州の米国からの離脱を提唱しているのだ。英国のEU離脱「Brexit」をもじった「Calexit」という名前まである。
1/ If Trump wins I am announcing and funding a legitimate campaign for California to become its own nation.
— Shervin (@shervin) November 9, 2016
確かに、カリフォルニア州は独立してもやっていける。十分に裕福なのだ。米国商務省経済分析局によると、カリフォルニア州の2015年の州内総生産(Gross State Product)は2.5兆ドルで、世界第6位の経済規模がある。
しかし、米国から独立する提案は、大人の問題に対する幼稚な回答だ。実際、この提案は、トランプによる実現性が乏しいアメリカとメキシコの国境に壁を作る計画を支持する「我々と彼ら」の感情と、あまり変わらない。シリコンバレーは、すでに、カリフォルニア州内で貧富の差を拡大させ社会を混乱させている。格差の拡大はトランプを勝利させた問題をこじれさせ、アメリカを傷つけることになる。
テクノロジー信奉者が描く未来は、不確かになり、政府との関係は変わらざるを得ない。しかし、Calexitはその解決策にはならない。いまは「私たちが個人的にどの候補者を支持したかに関わらず、唯一の方法は、共に前進すること」だ。これは、(受諾演説で似たようなことを述べたが)ドナルド・トランプの言葉ではない。ティム・クックのアップル従業員への昨日のメモからの引用だ。
シリコンバレーにはまともな意見もある。テック産業は、独自の壁を作るよりも、そうした意見に耳を傾けた方がいい。
(関連記事:Bloomberg, The New York Times, Guardian, “トランプ候補を完全論破 適当なコスト計算をするな,” “The All-American iPhone,” “Six Big Technology Questions for President Trump”)