3年前、米国のスコット・ケリー宇宙飛行士は地球に帰還した。2016年3月1日に国際宇宙ステーションから帰還したケリー宇宙飛行士は、医療用顕微鏡のもとで米国最高記録となった340日間の宇宙滞在を終えた。かつて宇宙飛行士であった、双子の兄弟であるマーク・ケリーに対しても、地球上で似たような詳細な調査が実施された。この2人のおかげで、長期間の宇宙滞在が人体に与える影響を調べる珍しい機会が得られた。この調査結果からは、たとえば火星などへの宇宙旅行で何が起こり得るかを垣間見ることができる。
3年以上が経過したいま、微小重力や放射線、宇宙環境がケリー宇宙飛行士の体にどのように影響したのかが明らかになってきた。多くの研究者による最初の調査結果が4月12日付のサイエンス誌で発表され、人類が宇宙を拠点とする未来が期待できることを伝えた。米国航空宇宙局(NASA)双子研究の主任研究員であるコーネル大学のクリス・メイソン教授は、「宇宙飛行士になることに興味がある人や宇宙飛行にとっては、とても良いニュースです」と述べる。「体に多数の変化が見られた一方で、地球上でまた正常な状態に戻れるという驚くほどの柔軟性も示されています」。
この調査では、免疫システム(地球上と同様の働きが見られた)や眼球の形(ケリー宇宙飛行士の網膜神経は厚くなっていた)など、多くの生物学的マーカーが調べられた。そして、DNAや遺伝子発現を詳しく調べることにより、2つの目立った変化が明らかになった。
コロラド州立大学のスーザン・ベイリー教授らは、ケリー宇宙飛行士のテロメア(染色体末端粒子)と、関連する酵素テロメラーゼに焦点を当てて観察した。テロメアはDNAの末端にあり、通常その長さは年齢や健康状態を表す。老化やストレス、放射線などによって短くなることがある。
ベイリー教授らは、宇宙飛行によってストレスを与えられ放射線にさらされるので、ケリー宇宙飛行士のテロメアは短くなると予測していた。「実際はその逆でした」とベイリー教授は言う。「ケリー宇宙飛行士が宇宙に発ってから2週間以内に採取したサンプルを調べるとすぐに、出発前より …