これが「ブラックホール」だ!国際チームが初の撮影に成功
「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」プロジェクトの科学者らは4月10日、地球規模の開口合成望遠鏡を用いて観測したブラックホールの画像を発表した。天文学者らはこれまでさまざまな手法でブラックホールの存在を確認し、特性を調べてきたが、見えない天体の直接の観測に成功したのはこれが初めてだ。 by Erin Winick2019.04.11
「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」プロジェクトによる、瞬く間に有名になるであろうこの画像は、地球から5300万光年以上の距離に位置するM87(メシエ87)銀河の中心にあるブラックホールを、史上初めて捉えたものである。このブラックホールは太陽の65億倍の質量を持つ。
このくっきりした画像は、4月10日に世界中で同時に開かれた複数の記者会見で研究チームが公開したものだ。詳細はアストロフィジカル・ジャーナル・レターズ(Astrophysical Journal Letters)誌に掲載された一連の論文に記されている。ブラックホールの「事象の地平面(イベント・ホライズン)」の視覚的な証拠を示すものであり、これまで見えないと考えられてきたものを可視化することになった。
「歴史は、この画像以前と以後に分けられることになるでしょう」。今回開かれた記者会見の1つで、マックス・プランク電波天文学研究所のマイケル・クレイマー教授はそう語った。
だが、光を発しないものの写真をどうやって撮るのだろうか?EHTはブラックホール自体ではなく、それを取り巻くガスに注目し、ブラックホールの「影」を撮影した。具体的には、研究者らは事象の地平面に注目した。事象の地平面とは、光ですらブラックホールの強力な重力から逃れられず、外に出られなくなる境界面のことである。事象の地平面の周囲に存在するガスは、粘性を介して重力エネルギーを解放することで数十億度に加熱され、アインシュタインの一般相対性理論によって予測される形状のシルエットを作り出す。現在のところ、EHTの観測結果はアインシュタインの予測と一致している。
今回の画像では中心が暗くなっており、周囲は明るく光っている。この明るい光はブラックホールの驚異的な重力によって引っ張られている。画像をよく見ると、一方の側がもう一方の側より明るいことがわかる。これはブラックホールの地球に対する向きによるものだ。明るい側は地球の方に回転しているため、地球へ飛んでくる粒子がより速くなり、それによって明るく見える。
世界中の天文学者たちが今回の発表を祝福している。「高エネルギー宇宙の可視化に約20年を費やしてきましたが、今、こうしてブラックホールのシルエットを見ることができました。私が生きているうちに実現したなんて信じられません」。チャンドラ( Chandra)X線観測衛星のビジュアライゼーションおよび新興技術のリーダーを務めるキム・コワル・アーカンドはそう話す。
「私にとって、一連のすばらしい天文学的発見の中でも特にすばらしいものです。かつてはSFの領域にあったものが、科学的事実になったわけですから」。
今回の画像は電波天文学の技術を用いて作成された。電波天文学の多くでは、巨大な電波望遠鏡を用いて、宇宙から地球にやって来る電波を捕捉する。だがブラックホールの画像を作成するには、既存のものよりもはるかに大きな電波望遠鏡が必要とされた。研究者らが必要としていたのは、地球規模の電波望遠鏡だった。
EHTでは、開口合成技術により4つの大陸の電波望遠鏡の観測結果を組み合わせることで、地球規模の電波望遠鏡を実現している。実際の電波望遠鏡の配置は北米、南米、ヨーロッパ、南極大陸に広がっており、その他の地域も組み込まれている。複数の電波望遠鏡を小規模に配置して観測した場合と同様に、これらすべての電波望遠鏡で同時に観測をすれば、データをひとまとめにできる(より詳しく分かりやすく解説されている動画はこちら)。
今回公開された画像の作成には、2017年4月に観測されたデータを用いた。この2年間、研究者らは世界中で同時に観測されたデータを同期し、できる限り明瞭な画像にするための作業に取り組んできた。初期に作成された画像は少しぼやけていたため、2018年にはより明瞭な画像を作成するためチリの観測所が追加された。
今回の画像の公開は、ブラックホール研究の大きなマイルストーンとなる。「我々はブラックホールの存在を確認し、その特性について実にさまざまな方法で研究してきました。しかし、直接の観測に勝るものはありません」。南カリフォルニア大学のクリフォード・ジョンソン教授は今回の発表に先立ってMITテクノロジーレビューに語った。「煙を吐いている銃だけでなく、発射された銃弾も調べるようなものです」。
次の段階は、ブラックホールの内部で実際に何が起こっているのかを解明することだ。今回の画像はこのミステリアスな天体の謎を解くための大きな一歩だが、この光の向こうに一体何があるのかを知るためには、まだ解決すべき課題が残っている。
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- エリン・ウィニック [Erin Winick]米国版 准編集者
- MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。機械工学のバックグラウンドがあり、宇宙探査を実現するテクノロジー、特に宇宙基盤の製造技術に関心があります。宇宙への新しい入り口となる米国版ニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」も発行しています。以前はMITテクノロジーレビューで「仕事の未来(The Future of Work)」を担当する准編集者でした。それ以前はフリーランスのサイエンス・ライターとして働き、3Dプリント企業であるSci Chicを起業しました。英エコノミスト誌でのインターン経験もあります。