フェイスブックが人工知能(AI)を応用した写真用の新フィルターを発表した。控えめな一手だが、この発表はAIを事業のあらゆる面に取り入れようとするフェイスブックの壮大な野望の現れだ。
新ソフトは多層ニューラルネットワークにより、写真やライブ映像を有名な芸術作品に似た画像に変換する。同様の結果が得られる他の製品(クラウド上で動作するアルゴリズムが処理)とは異なり、フェイスブックの新フィルターは実際に全ての処理がユーザーの携帯電話上で実行される。
クラウド上の処理は、フィルターをリアルタイムで適用しにくくなる。インターネットにデータを送信するタイムラグがあり、採用できないのだ。しかし、AIのような高度な処理をスマートフォンで実行するのは設計上の難題でもある。そこでフェイスブックのエンジニアは、軽量AIシステムの「Caffe2Go」と、計算量を無駄遣いせずに望ましい芸術的な効果を作り出す、特別に最適化された演算モデルの2つを開発して難問を克服した。
基本的に、開発チームはどこで手を抜けるかを探し出すために、それ自体は新しいコンセプトではない芸術的なAIモデルの実現に長い時間を費やした。開発チームは、AIモデルによってモデルのサイズを何百という因子レベルで縮小できた。この結果生まれたのが、データ接続の信頼性に影響されずに、常に速く、スマホ上で動作する、確実な結果を出すAIソフトだ。
もちろんフェイスブックはスマホ上で動作するソフトウェアにAIを詰め込んだ最初の企業ではない。グーグルの翻訳ツールやアップルの顔認識システムも同じことをしている。しかしフェイスブックの新ソフトは、通常は非常にリソース集約型であるプロセスをスマホ上で実現した点で傑出している。
ただし、このニュースの価値は画像フィルターそのものにはない。重要なのは、フェイスブックがCaffe2Goにより、スマホ上で動作するAIを、今後多くの製品に導入できるようになったことだ。すぐにでもジェスチャーや画像認識が改善されるだろうし、同様の手法が音声認識や音声合成に使われるのは間違いない。
実際、2016年11月8日に発表された、フェイスブックがAIに抱く野望に関する熱狂的な投稿で、同社のマイク・シュロファーCTOは、いかに機械学習の研究がフェイスブックの組織の隅々までいきわたっているかを詳細に説明している。フェイスブックはさらに現実的なVRアバターの作成や、インターネットアクセスを最適化するコンピュータービジョンツール、音声認識にもAIを使っている。
さらにシュロファーCTOは、AIへの適合が急速に進むことを表すいくつかの数字を示した。たとえば、フェイスブックが開発したデータ共有ツール「AutoML」は、毎月確実に30万件以上はある機械学習のパラメーター調整を自動化し、新規の学習内容を同社のシステム同士で更新している。現在、半年前に比べて、フェイスブックは2倍のAI実験を実施中だ。
もちろんAIシステムには、まだ越えるべき大きなハードルがある。たとえば本当の意味での言語理解、現実世界をどう見えるかを理解する能力、実際の状況がどう進むかを予測する能力などだ。シュロファーCTOは、これらがAI研究の次の大きな課題だと認めている。このような種類の知能が携帯電話に備わるには、まだしばらく時間がかかるが、フェイスブックは間違いなくこの可能性に目を向けている。