遺伝子編集ツール「クリスパー(CRISPR)」の発明によって、科学者たちはゲノムの特定の箇所のDNAを改変できるようになった。しかし、CRISPRによる精密な修正は、一度に1カ所ずつしかできないことが多い。
それが過去の話になる日も、そう遠くないかもしれない。ハーバード大学の研究チームが、CRISPRを用いて、遺伝子編集技術の分野において史上最多となる1万3200もの遺伝子編集を、1つの細胞に対して実施したことを発表した。
遺伝学者のジョージ・チャーチ教授が率いる同研究チームは、現在よりはるかに大規模な遺伝子の書き換えの実現を目指している。最終的に人間までをも含む種の「根本的な再設計」につながる可能性があるという。
大規模な遺伝子編集はこれまでにも試されてきた。2017年、ポール・トーマス教授が率いるオーストラリアの研究チームは、マウスのY染色体に複数の遺伝子編集を施して、Y染色体の存在を消すことに成功した。この手法は、余分な染色体により引き起こされるダウン症候群の治療に使える可能性があると目されている。
遺伝子編集の新記録を打ち立てるため、ハーバード大学の研究チームのメンバーであるオスカー・キャスタノンとコーリー・スミスは、CRISPRを用いて、ヒトゲノムに散在する謎の多い反復配列である「LINE-1」と呼ばれるDNA配列を標的にした遺伝子編集を実施した。自己複製能力を有するこの遺伝子配 …