事の始まりは7年前。医師が私に尋ねてきた。「あなたは足を失いたいですか」。私は答えた。「いいえ、失いたくありません」。医師は続けた。「いいでしょう。それでは、血糖値を毎日測定し、低い値を保ってください。そうすれば、この病気をコントロールできます。誰も足を失わなくて済むようになりますよ」。
その日、私は2型糖尿病であることが判明した。患者にとってこの病気は、要するに血液中のグルコース量のことだ。値が低ければ良く、高ければ悪い。足を失うと脅したのは医師の作戦だろうが、糖尿病患者の場合、感染症が検出されないまま進行してしまうと、足を失うことも十分ありうるのだ。糖尿病患者は、免疫機能の低下と手足の感覚の鈍化という恐ろしい組み合わせにしばしば襲われることがあるが、この状態では通常の感染症も極めて重篤な状態をもたらす。さらに、糖尿病であるとの診断を受けた3000万人の米国人と同様に、私も他の合併症にかかる危険性がある。腎臓、網膜、歯茎、心臓の病気、さらにはうつ病の発症率も高い(糖尿病で足を失うかもしれないと知れば、気が落ち込むのは当然だ)。
しかし、私の場合は、足を失うという脅しが効いた。それから、健康に関する情報を集め始めた。
私は生まれてこのかた、自分の健康に気を使ったことがないことに気づいた。私の肉体は、脳を収納するための単なる肉の入れ物でしかなかった。そこに突然、FDA(米国食品医薬品局)の承認を受けたグルコース測定器が表れ、私に数値を示し、その数値に従って自分の体を今までより大事にしなければならなくなった。
グルコース測定器で分かるのはグルコース量だけではないことも分かってきた。さまざまな情報が手に入り、糖尿病以外の健康問題を回避する手助けをしてくれる。例えば、高血圧症は、7500万人の米国人と糖尿病患者の大半が罹患している。さらに私は、脳卒中のリスクを高める心房細動(不整脈の一種)にかかる危険性も高い。
こうした新しい情報を収集するためには、さまざまなサービスをパッチワークのように組み合わせなければならないので、私はエンジニアのようなやり方をしている。歩数の計測には、フィットビット(Fitbit)やナイキ(Nike)のウェアラブル機器や、ムーブズ(Moves)などのアプリを使う。高血圧を確認するには、ウィジングズ(Withings)のスマートモニターを使う。スマート体重計に乗れば、体重や体脂肪率、ボディマス指数のデータが一緒に保存される。そして、血液中のグルコース量は1日6回、毎回の食事の前後に測定する。
私は測定データをCSVファイルにエクスポートして、自分でグラフを作り、ダッシュボードのようにして眺めている。このお手製のモニターシステムのおかげで、私は「自己計量」の流れに初期のころから参入することができた。
しかし、7年も経つと、当時は珍しかった私のような生体データ収集癖が主流となってきた。私が作ったつぎはぎのモニターシステムは、アップル(Apple)のぴかぴかのアプリ「ヘルス(Health)」に取って代わり、私が最初に買ったラップトップパソコンよりもパワフルなウェアラブル機器が、私に運動するよう忠告するようになった。さらに、いまや私の腕時計は心臓の監視さえもできる。
私はこの15か月間、アップルウォッチを手首に装着し、1日あたりの運動目標の達成と健康状態のチェックに使用している。(アップルウォッチの通知:「ダン、もうすぐムーブリングが完成します。速足で9分歩けば達成できます」)。だが、アップルの最新モデル「シリーズ4」には特別な機能が搭載されている。内蔵型心電図(ECG)だ。
医療現場で最も優れた心電図検査法である「標準12誘導心電図」では、専門家がすべての配線と電極を監視しながら、心臓の電気的活動を測定する。アップルの最新モデルでは、この検査法の簡易バージョンを、一日中装着していられる腕時計で毎日実施できる。これが数百ドルで買えるというのはブレークスルーだ(日本版注:2019年7月現在、日本では心電図機能は利用できない)。
店頭で買える心電計を売り出したのはアップルが初めてではない。シリコンバレーに本社を構える医療機器スタートアップ企業のアライブコー(AliveCor)が、FDAの認可を受けた2種類の家庭用心電計を販売したのが最初である。100ドルの「カーディアモバイル(KardiaMobile)」と、199ドルのアップルウォッチ用バンドアクセサリー「カーディアバンド(KardiaBand)」だ。
現在、これらの機器はすべて、主に心房細動の検査に使われている。これは重大な事実だ。なぜなら、610万人の米国人が心房細動に罹患しているだけでなく、研究によれば、不整脈を持ちながらも診断を …