ディープマインド、今度はスタークラフトで駆け引きや模倣を学習
計画、予測、ハッタリが要求されるゲームをプレイするために、人工知能には画期的進歩が必要だ。 by Will Knight2016.11.07
コンピューターに囲碁を教えるもスゴいが、もし本当にマシン・インテリジェンスの限界を超えたいなら、ザーグに急襲をかけたり、 侵略のために襲来する多数のプロトス船に備えて罠を仕掛けたりする訓練が必要だ。
絶大な人気を誇るリアルタイム・ストラテジー・コンピューター・ゲーム「スタークラフト」に、もうすぐ最新のAIプレイヤーが参戦する。ゲームの開発元であるブリザード・エンターテイメントと、汎用人工知能を開発中のグーグル・ディープマインド(アルファベット(グーグル)の子会社)が、11月4日に開かれたゲーム・カンファレンスで今後の展開を発表した。
コンピューターにスタークラフト2の高度なプレイを教えることは、人工知能研究で、非常に重要な、記念碑的業績になり得る。ゲーム内でプレイヤーは基地を建設したり、資源を採掘したり、敵の前哨基地を攻撃したりする。スタークラフトのように複雑で自由度の高いゲームに習熟するには、研ぎ澄まされた技能と戦略的判断力、そして狡猾さが必要だ。スタークラフトは視覚面でも比較的複雑で、敵が何をしようとしているのか判別できない場合もよくある。したがって、コンピューターが人間の知性を模倣する上で、スタークラフトは次の大躍進を遂げるのに理想的な場に違いないのだ。
最新タイトルであるスタークラフト2の更新プログラムは、来年3月までにリリースされる。人工知能の研究者は、実験や観察といった最先端の学習手法により、自律的にプレイ方法を改善するシステムを構築できるようになる。たとえば、後々の報酬を当てにしてその場では損をする行動をとったり、人間のプレイヤーを観察して模倣したりするような機械学習システムの利用が考えられる。
スタークラフト2の新インターフェイスは、人間のプレイヤーが不利にならないよう、1分あたりに実行できるコマンド数等、機械学習システムの能力に制限がかかる。なお、機械学習の補助用に視覚的に単純化されたゲーム表示も追加される。ブリザードとディープマインドは、研究者が活発に仕事に取り組めるよう、支援ツールもリリース予定だ。
スタークラフト2をAIアルゴリズムの遊び場に変える研究を率いるグーグル・ディープマインドのオリオール・ビニャルス研究員は、スタークラフトは新しい、胸が躍るような試みになる、という。
「ずっと前のことですが、スタークラフトはわたし自身かなり真剣にプレイしました。プレイヤーとして、スタークラフトには面白い点がたくさんあると断言できます。たとえば、プレイヤーに求められる計画性と記憶力は、機械学習分野でも注目されているトピックなんです」
スタークラフトは大人気のコンピューター・ゲームである一方で、eスポーツ(プロスポーツのように賞金がつくゲーム)種目としても史上最も成功したゲームだ。プレイヤーは高額な賞金をめぐって競い合い、テレビ中継され、大勢の観客の前で大会が開催されることもある。旧式のAIはすでに導入済みだが、人間のプレイスキルには遠く及ばない。ブリザードでスタークラフト2を担当するクリス・シガティー製品ディレクターは、この新たな試みがゲームにフィードバックされることを望んでいるという。
「もしかしたら、AIがコーチや先生のような存在になるかもしれません」
数年前、ディープマインドはアタリのシンプルなコンピューター・ゲームをプレイできるAIを開発し、衆目を集めた。
昨年ディープマインドが開発したプログラム「アルファ碁(AlphaGo)」は古くから伝わるボードゲームである囲碁を、熟達したレベルでプレイした。
明確なルールに則って囲碁を高度にプレイできるようコンピューターをプログラミングするのは不可能だと思われていた(“Google’s AI Masters Go a Decade Earlier Than Expected”参照)ため、AlphaGoが史上最強の棋士のひとりとされる韓国の李世ドル九段に勝利したことは、記念碑的出来事と捉えられている。
一方、AIプログラムの開発とテストにコンピューター・ゲームを使うことには関心が高まっている。 マイクロソフトの研究者は、シンプルなオープンワールドゲーム「マインクラフト」の研究用バージョンを、AI開発の実験環境に作り変えた(「人間とは何か?人工知能がマイクラで学習中」参照)。ほかにも、フェイスブックの研究グループは、プログラム変更なしでスタークラフトを機械学習の実験に使えることを11月4日の研究論文で発表している。
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クレジット | Images courtesy of Deep Mind |
- ウィル ナイト [Will Knight]米国版 AI担当上級編集者
- MITテクノロジーレビューのAI担当上級編集者です。知性を宿す機械やロボット、自動化について扱うことが多いですが、コンピューティングのほぼすべての側面に関心があります。南ロンドン育ちで、当時最強のシンクレアZX Spectrumで初めてのプログラムコード(無限ループにハマった)を書きました。MITテクノロジーレビュー以前は、ニューサイエンティスト誌のオンライン版編集者でした。もし質問などがあれば、メールを送ってください。